小児矯正で抜歯が必要になるケースと回避できる条件を矯正専門医が解説
小児矯正で「抜歯が必要かもしれません」と言われたとき、保護者の方が最も気にされるのは「本当に抜く必要があるのか」「成長を待てば抜かずに済むのではないか」という点ではないでしょうか。
抜歯が必要になる具体的な条件と、抜歯を回避するために保護者の方が知っておくべきポイントを、矯正専門歯科の視点からまとめました。
小児矯正で抜歯が必要になるのはどんなとき?
抜歯が検討されるのは、永久歯を並べるスペースが顎に対して不足しているとき、または特定の乳歯が永久歯の萌出を妨げているときです。判断は今の歯並びだけでなく、これからの顎の成長余地・歯のサイズ・骨格バランスを総合して下します。代表的な3つのケースを順に見ていきます。
歯と顎のサイズが大きくずれている場合
永久歯の幅の合計が顎の骨の大きさに対して明らかに大きい場合、歯をきれいに並べるための物理的なスペースが足りません。拡大装置などで顎を広げる方法もありますが、歯と顎の不調和が大きいと、拡大だけでは対応しきれないことがあります。
特に下顎は、上顎と違って骨の縫合部が早期に閉じてしまうため、骨そのものを拡大できる範囲に限界があります。下顎での拡大は主に歯の傾斜移動(歯が外側に倒れること)によるもので、過度に拡大すると歯が不安定な位置に移動してしまいます。
このような場合、無理に非抜歯で治療を進めるよりも、抜歯によってスペースを確保するほうが、長期的に安定した歯並びにつながると判断されることがあります。
口元が前方に出ていて自然に口を閉じにくい場合
上下の前歯が前方に傾いている、あるいは顎の骨格自体が前方に突出している場合、歯を並べるだけでなく、前歯を後方に下げる必要があります。前歯を後方に動かすにはスペースが必要であり、そのために小臼歯(前から4番目または5番目の歯)を抜歯することがあります。
この場合、抜歯は見た目だけの問題で行うわけではありません。
口が自然に閉じにくい状態が続くと口呼吸になりやすく、口腔内が乾燥して虫歯や歯周病のリスクが高まります。お子様の将来的な口腔環境を守るための判断でもあります。
矯正治療に支障が出る乳歯がある場合
乳歯が本来の時期に抜けず、永久歯の萌出(生えてくること)を妨げている場合があります。例えば、乳歯の根がなかなか吸収されないまま残っていると、後続の永久歯が正しい位置に生えてこられません。このような場合、乳歯を計画的に抜くことで、永久歯の萌出経路を確保します。
乳歯の抜歯は永久歯の抜歯とは性質が異なり、いずれ抜ける歯を適切なタイミングで取り除くものです。
抜歯を回避できる可能性が高まる条件
すべてのケースで抜歯が必要になるわけではありません。特に成長期のお子様は、顎の発育を利用できるため、治療を始める時期と方法の選び方によって、将来的な抜歯を避けられる可能性が変わります。
混合歯列期(6〜12歳頃)に一期治療を始める
乳歯と永久歯が混在する「混合歯列期」は、顎の骨がまだ成長途中にある時期です。この時期に一期治療を始めると、拡大装置などを使って顎の幅を広げたり、奥歯を後方に移動させたりして、永久歯が並ぶスペースを作ることができます。一期治療でスペースを確保できれば、永久歯が生えそろってからの二期治療で抜歯をせずに歯を並べられる可能性が高まります。
8〜9歳頃から治療を開始した場合、抜歯なしで治療が完了する割合が高いとされており、一方で中学生以降に初めて矯正を始めると、顎の成長がほぼ終了しているため抜歯が必要になるケースが増えます。
不正咬合の原因が「骨格」よりも「歯の位置」にある
不正咬合(噛み合わせの悪さ)の原因は大きく分けて「骨格のずれ」と「歯の位置のずれ」があります。骨格そのものに大きな問題がなく、歯の位置だけが乱れているケースでは、歯を動かすだけで改善できるため、抜歯せずに治療できる可能性が比較的高いです。反対に、上下の顎の前後的なずれが大きい場合(例えば上顎が大きく前に出ている、下顎が極端に小さいなど)は、歯の位置を変えるだけでは対応が難しく、スペースの確保や前歯の位置の調整のために抜歯が検討されます。
口呼吸や舌の癖を早期に改善する
口呼吸、舌で前歯を押す癖(舌突出癖)、指しゃぶりなどの習癖は、歯並びの乱れや顎の成長のバランスに影響を与えます。これらの癖が残ったまま矯正を進めると、治療の効率が下がるだけでなく、治療後の後戻りのリスクも高まります。一期治療の段階で舌の位置の改善や鼻呼吸の習慣づけに取り組むことで、顎の成長が本来の方向に促され、歯が並ぶスペースが自然に確保されやすくなります。
矯正装置による治療だけでなく、こうした土台づくりが抜歯回避に寄与します。
小児矯正で抜歯する場合、どの歯を何本抜くのか
抜歯が必要と判断された場合、「どの歯を、いつ、何本抜くのか」はお子様ごとに異なります。一般的によく選ばれる方法は2つあり、それぞれ目的が違います。代表的な2つを整理します。
多いのは第一小臼歯の抜歯
永久歯抜歯で最も多く選ばれるのは、前から数えて4番目の第一小臼歯です。多くの場合、上下左右で1本ずつ、合計4本を抜くパターンが選ばれます。
第一小臼歯が選ばれる理由は、歯列のちょうど中間にあり、前歯を後ろに下げるスペースと奥歯を前に動かすスペースの両方を作りやすいためです。前歯のガタつきを治す場合も、口元の突出を改善する場合も、装置で歯を動かす余地が確保しやすくなります。
抜歯本数は症例によって変わります。上下の前歯の状態が異なれば本数が分かれることもあり、全体のバランス次第で2本のみの抜歯で済むこともあります。「合計4本」と固定で考える必要はなく、計画の中で必要最小限になるよう設計します。
乳歯の計画的な抜歯(連続抜去法)
小児矯正に特有の方法として「連続抜去法」があります。これは、混合歯列期に決まったタイミングで決まった順番に乳歯や永久歯を抜いていく方法で、永久歯が生えてくる自然な過程を利用して歯並びを整えます。
連続抜去法の利点は、矯正装置の使用を最小限に抑えられる点です。装置を使わずにある程度歯並びが整うため、その後の本格的な矯正治療(二期治療)の期間を短縮できます。また、装置が少ないぶん歯みがきがしやすく、虫歯のリスクも抑えられます。
この方法が適用できるのは、将来的に永久歯の抜歯が必要になることが高い確率で予測されるケースに限られます。矯正専門の医師が精密検査の結果をもとに、歯の萌出時期と合わせて抜歯のスケジュールを計画します。
抜歯後に起こりうる症状と対処法
抜歯と聞くと、痛みや見た目の変化を心配される方が多くいらっしゃいます。実際に経験する症状の多くは予測でき、適切に対処すれば日常生活への影響は限られた期間にとどまります。お子様が安心して治療に向かえるよう、起こりうる経過と対処法を整理します。
抜歯当日〜数日の痛みと腫れ
矯正のために抜歯する小臼歯や乳歯は、通常、抜歯の難易度が比較的低い歯です。親知らずの抜歯と比べると、術後の痛みや腫れは軽度であることが多い傾向です。
抜歯当日は麻酔が切れた後に鈍い痛みを感じることがありますが、処方される痛み止めで対処できる範囲がほとんどです。
腫れは翌日がピークになることが多く、2〜3日で落ち着くのが一般的です。お子様には「抜歯した側で噛まない」「強いうがいを避ける」「激しい運動は控える」の3点を伝えておくと、回復がスムーズに進みます。
抜歯したスペースが一時的に目立つ
抜歯直後は、抜いた部分のスペースが歯列の中でぽっかり空いて見えます。「このまま隙間が残るのでは」とお子様が心配になるかもしれませんが、矯正装置で前後の歯を動かしてスペースを閉じていくため、最終的にはきれいに整列します。
隙間が閉じるまでの期間は個人差がありますが、数ヶ月から1年程度かかることが一般的です。
長い治療期間だからこそ、最初の「診断」で方針が決まる
小児矯正は、混合歯列期の一期治療と永久歯期の二期治療を合わせると、数年単位の長い時間がかかります。だからこそ、最初の段階でどれだけ正確に状態を見立てられるかが、その後の治療内容と抜歯の要否を大きく左右します。
検査で何を見ているのか
矯正の精密検査では、レントゲン撮影、口腔内写真、歯型の採得、噛み合わせの記録などを行います。具体的に見ている項目は次のとおりです。
- 永久歯がすべて存在しているか、欠如歯や過剰歯はないか
- 顎の骨の幅・長さが、永久歯がそろうために十分か
- 上下の顎の前後関係や左右のずれの有無
- 噛む筋肉や顎関節の状態に偏りがないか
- 口を閉じる力・舌の位置・呼吸の仕方に問題がないか
これらを組み合わせて「成長を待って抜歯せずに済みそうか」「いま介入すれば抜歯を回避できそうか」「成長後に外科矯正が必要になりそうか」を見立てます。
「抜かないで済むなら抜かない」が原則
矯正治療において、抜歯はあくまでも治療目標を達成するための手段であり、第一選択ではありません。お子様の希望や保護者の方の気持ちに応えながら、非抜歯で目標を達成できるなら抜歯は行いません。一方で、非抜歯にこだわるあまり無理な治療計画を立てると、歯列が安定せず後戻りが起きたり、歯根や歯肉に負担がかかったりするリスクがあります。
抜歯か非抜歯かの判断は「どちらが歯にとって安全で、長期的に安定するか」が基準です。
矯正治療は長い期間をかけて取り組む治療だからこそ、最初の診断でしっかりと方針を立て、途中経過を確認しながら進めていくことが重要です。カウンセリングの際に「なぜこの方針なのか」「抜歯以外の選択肢はあるか」「抜歯した場合としなかった場合の仕上がりの違い」を具体的に確認しておくと、保護者の方もお子様も納得して治療に臨めます。
まとめ
小児矯正で抜歯が必要かどうかは、お子様の歯と顎のサイズ・骨格バランス・治療を始める時期で大きく変わります。混合歯列期に方針を立てられれば顎の成長を利用してスペースを作れる可能性があり、抜歯回避の余地が広がります。一方で、ずれが大きい症例では計画的な抜歯を含めた治療のほうが長期的に安定するケースもあります。
迷ったときに大切なのは、「なぜそう判断するのか」を歯科医師から納得できるまで聞くこと、他にどんな選択肢があるかも含めて方針を比較検討することです。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、長期的な視点で方針をご提案しています。お子様の歯並びや抜歯の要否でご不安があれば、まずは初診相談でお話を聞かせてください。検査をしたうえで、抜歯を含む選択肢ごとのメリットとリスクを丁寧にご説明します。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木 善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。
矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年 徳島大学歯学部卒業
- 1997年 徳島大学大学院歯学研究科修了
- 1997年 徳島大学歯学部矯正学講座助手
- 2004年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助手
- 2007年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助教
- 2022年 矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会・認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【小児矯正に関する重要事項】
小児矯正(自由診療)は公的医療保険が適用されない自由診療です。なお、顎変形症と診断される症例の外科矯正は保険適用となります。
- 治療内容:お子様の歯並びや顎の成長段階に合わせた装置(拡大装置・機能的矯正装置・固定式矯正装置等)を用いた矯正治療
- 治療期間・回数:混合歯列期からの一期治療は1〜3年程度、永久歯がそろってからの二期治療を含めると数年単位の通院が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費 500,000円(税込)に施術管理料・セラミックブラケット・保定装置料を包括。検査料 70,000円・診断料 30,000円・調整料毎月6,000円(税込)が別途。追加装置を使用する場合はリンガルアーチ 35,000円・拡大装置 45,000円(税込)等の費用がかかる場合があります。クリニックによって異なります。
- リスク・副作用:歯の動きには個人差があり計画通りに進まないことがある、装置による違和感・痛み・口内炎、装置の脱離や破損、虫歯・歯肉炎のリスクが上がる、抜歯を伴う場合は抜歯部位の痛みや腫れ、後戻り、まれに歯根吸収が生じることがある
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北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
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