矯正の保定装置はいつまで必要?種類・費用・正しい使い方を解説
矯正で歯並びが整ったあとに装置を外す瞬間は、治療のゴールに見えて、実は最後の山場の入り口です。動かしたばかりの歯は周りの骨や歯ぐきがまだ柔らかく、放っておくと数ヶ月のうちに少しずつ元の位置へ戻ろうとします。保定装置(リテーナー)は、新しく整った歯並びを骨のなかに「定着」させるための仕上げの道具で、ここでの過ごし方が数年後の見え方を決めます。
保定装置が矯正治療の仕上がりを左右する理由
矯正治療の成果は、装置を外した日に固まるのではなく、その後の保定期間を経て初めて骨のなかに刻み込まれます。動かした歯は、周囲の組織が新しい位置を「正しい場所」と認識するまで時間がかかり、その間は外からの支えが必要になります。
歯が元に戻ろうとする「後戻り」の仕組み
矯正で歯を動かすとき、歯そのものだけでなく、歯を支えている歯槽骨と、歯と骨をつなぐ歯根膜という薄い繊維も一緒に変化します。歯が動く方向の骨は溶けて減り、反対側に新しい骨ができる、という入れ替わりを繰り返しながら歯は移動していきます。
問題は、装置を外した直後の歯の周りでは、この骨と歯根膜の入れ替わりが「まだ途中」だという点です。新しい位置にできた骨はまだ若く密度が低く、歯根膜の繊維も伸びたまま元の方向に戻ろうとする力を持っています。骨と繊維がゆっくり安定していくこの過程を、骨のリモデリングと呼びます。
リモデリングが完了するまでの数ヶ月から数年は、外から見えなくても、歯のすぐ周りで「組織が定着しようとする力」と「元に戻ろうとする力」がせめぎ合っています。保定装置を入れずに放置すると、後者の力が勝って歯が少しずつ動き、整えた歯並びが崩れていきます。これが後戻りです。
装置を外した直後の歯は、見た目は整っていても、骨のなかでは「まだ仮置き」の状態です。
保定装置を使わないとどうなるか
保定装置を使わないまま放置すると、後戻りは数日〜数週間で始まります。最初に動きやすいのは、もともとの位置に戻ろうとする力が強い前歯のねじれや、抜歯で閉じたすき間です。鏡で気づくほどの変化が出るのは数ヶ月後のことが多く、その時点で慌ててクリニックを受診する方は少なくありません。
長い目で見ると、保定をきちんと続けなかった場合の歯並びは、数年単位でじわじわと崩れていきます。矯正治療を受けた歯であっても、加齢に伴う噛み合わせの変化、舌で歯を押す癖、就寝中の食いしばりなどの影響を受けるためです。「治療直後はきれいだったのに、5年経ってまた気になり始めた」というご相談の多くは、保定の中断が背景にあります。
後戻りは「気がついたら戻っていた」ではなく、装置を外した瞬間から始まっている現象です。
保定装置の種類と自分に合った選び方
保定装置(リテーナー)は大きく分けて、自分で取り外せるタイプと、歯の裏に固定するタイプの2系統があります。どれが優れているという順位はなく、それぞれに得意な部分と注意点があります。
ここでは代表的な3種類について、特徴と向くケースを並べます。
マウスピース型リテーナーの特徴
マウスピース型リテーナーは、矯正後の歯並びの形をそのまま写し取った透明のマウスピースを、歯列全体にかぶせて使う装置です。
特徴は3つあります。1つ目は、装置全体が透明で薄いため、装着中の見た目への影響がほとんどないこと。日中の使用にも抵抗が少なく、人前で話す仕事の方にも選ばれやすいタイプです。
2つ目は、歯列全体を均等に覆うため、すき間やねじれの後戻りに対して保持力が出やすいこと。3つ目は、自分で簡単に取り外せるので、歯磨きや食事の時に清掃しやすいことです。
注意点として、素材が薄い分、夜間の食いしばりや歯ぎしりがあると2〜3年ほどで割れたり穴が空いたりすることがあります。割れた場合は型取りからの作り直しになるため、強い食いしばりがある方は装置の摩耗を前提に費用を見ておくと安心です。
プレート型リテーナーの特徴
プレート型リテーナーは、レジン(プラスチック板)を口蓋(上あごの内側)または下の前歯の裏側に沿って作り、前歯の表側にワイヤーをかけて固定する取り外し式の装置です。「ホーレータイプ」と呼ばれることもあります。長く使われてきた標準的な保定装置で、矯正歯科では今も多く採用されています。
ワイヤーで前歯を包む構造のため、前歯のねじれの後戻りには強い保持力を発揮します。レジン部分の調整によって細かく形を直せるので、保定期間中に少し動きが出ても、装置側の微調整で対応できる柔軟性があります。一方、レジン板が口の中で目立つこと、慣れるまで発音がしにくいことがあり、日中ずっと装着するのは負担に感じる方もいます。
このタイプは「夜間中心の使用」に切り替えた段階で生活への支障が一気に減るので、最初の1年間を乗り越えれば長く使い続けやすい装置です。
固定式(フィックス)リテーナーの特徴
固定式リテーナーは、上下の前歯(多くは犬歯から犬歯までの6本)の裏側に細いワイヤーを直接接着して、24時間ずっと働かせる装置です。フィックスリテーナー、ボンディングリテーナーとも呼ばれます。
最大の利点は、自分で外す必要がないため、装着忘れによる後戻りが原理的に起きないことです。前歯のねじれや小さなすき間が再発しやすい方、過去に取り外し式で後戻りを経験した方には、特に向いています。見た目への影響もほとんどありません。
一方で、ワイヤーが歯の裏側に常時あるため、歯磨きの工夫が必須になります。フロスは普通には通せず、ワイヤーの下を通せるスーパーフロスや歯間ブラシを使う必要があります。清掃が不十分だと、ワイヤー周辺に歯石がつき、虫歯や歯肉炎の原因になります。
固定式を選ぶ場合は、保定期間中の歯科受診とプロのクリーニングをセットで考えるのが現実的です。
種類を選ぶ際に確認したい3つのポイント
3種類のリテーナーを比べる際、見た目だけで選ぶと続かなくなることがあります。確認したいのは次の3点です。
| 確認ポイント | 見るべき内容 |
|---|---|
| 後戻りしやすい部位がどこか |
|
| 自己管理できるか |
|
| 食いしばり・歯ぎしりがあるか |
|
保定装置は「目立たないか」より「自分のケースで後戻りを防げるか」を基準に選ぶと、途中で断念する心配がなくなります。
保定装置の装着期間と段階的なスケジュール
保定期間の長さは「歯を動かしていた期間と同じくらい」が目安と言われますが、実際には段階的に装着時間を減らしながら年単位で続けます。動かした歯の周りで骨のリモデリングが完了するには時間がかかり、その途中で装着時間を急に減らすと後戻りが起きやすくなるためです。
保定期間の目安は2〜3年
保定期間は、最低でも2年以上を見ておくのが一般的です。さらに加齢や癖の影響を考えると、より長期にわたって夜間だけリテーナーを続けるケースもあります。
保定期間の最初の2年間は、動的治療と同じくらい大事な「治療の後半戦」と考えてください。
歯を動かしている間は、装置の力で歯が新しい位置に押し付けられているだけで、骨のなかに定着しているわけではありません。装置を外したあと、その位置で骨が固まり、歯根膜の繊維が新しい向きに張り直されるまでに、数ヶ月から年単位の時間がかかります。
1年目から3年目以降の装着時間の変化
保定装置の使い方は、年数が進むにつれて段階的に緩めていきます。初期の約1年は食事と歯磨き以外の時間は装着し、歯並びが安定してから装着時間を減らしていくのが標準的な流れです。
| 時期 | 取り外し式リテーナーの装着時間 | 通院の目安 |
|---|---|---|
| 1年目 | 食事と歯磨き以外は終日装着(おおよそ20時間以上) | 1〜3ヶ月ごと |
| 2年目 | 夜間のみ装着 | 3〜6ヶ月ごと |
| 3年目以降 | 夜間のみ・週数回など徐々に減らす(医師の指示による) | 6ヶ月〜1年ごと |
固定式の場合は本人が装着時間を意識する必要はありませんが、定期的にワイヤーの状態と清掃状況を確認するための通院は同じペースで必要になります。
装着を終了するタイミングの判断
保定の終わりは、本人の希望ではなく、矯正歯科医が次の3点を確認してから判断します。
- 歯の位置が前回受診時から変化していないか
- 噛み合わせが安定しており、特定の歯に強い力が集中していないか
- 親知らずや歯周組織の変化など、後戻りを引き起こす要因が新たに出ていないか
これらが満たされたうえで「夜間のみ→週数回→必要時のみ」と段階を踏んで装着頻度を減らしていきます。完全にリテーナーを使わなくなる方もいれば、加齢による歯並びの変化に備えて夜間装着を一生続ける方もいます。一生続けるという選択は決して例外ではなく、長期的に歯並びを安定させたい方に医師がすすめる現実的な選択肢の1つです。
「いつ終わるか」は年数で決まるのではなく、歯と骨の安定度を見て段階的に決まります。
保定装置の正しいお手入れと保管方法
保定装置は何年も使い続ける道具です。お手入れを怠ると、装置に汚れがついて口臭の原因になるだけでなく、歯ぐきの炎症や虫歯につながることもあります。装置のタイプによってケアの方法が違うので、自分のリテーナーに合わせた手順を最初に身につけておくと、その後の数年が楽になります。
取り外し式リテーナーの洗浄方法
取り外し式(マウスピース型・プレート型)は、外したタイミングで毎回水洗いするのが基本です。お湯で洗うと変形するので、水か常温の流水を使ってください。
歯ブラシで磨く場合は、歯磨き粉に研磨剤が入っているとリテーナーに細かい傷がつき、その傷に汚れがたまりやすくなります。リテーナーを磨くときは、研磨剤の入っていない歯磨き粉を使うか、何もつけずに優しくこするのが安全です。
週に1〜2回は、市販のリテーナー専用洗浄剤に浸け置きして、ブラシでは落としきれないバイオフィルムや着色を分解します。専用洗浄剤は商品によって浸け置き時間と頻度が違うので、必ず使用説明を確認してください。
保管は、しっかり乾かしてから専用ケースに入れます。ティッシュで包んだまま机に置いた、外食先で紙ナプキンに包んだら誤って捨てられた、というのは紛失事故の典型例です。「外したら必ずケースに入れる」を徹底するだけで、紛失と作り直し費用の大半は防げます。
固定式リテーナーのセルフケア
固定式リテーナーは、装置自体を外して洗えない代わりに、毎日の歯磨きとフロスのやり方を変える必要があります。前歯の裏側にワイヤーがある状態では、普通のフロスはワイヤーに引っかかって通りません。歯と歯の間を清潔に保つには、片端が硬く加工されたスーパーフロス、または毛先の細い歯間ブラシを使ってワイヤーの下を通します。
歯ブラシは、毛先をワイヤーと歯の境目に45度の角度で当てて、ワイヤー周辺の汚れを軽くかき出すように磨きます。電動歯ブラシを使っている方は、ワイヤーに強く当てると接着部分が外れることがあるので、力加減には注意してください。
固定式の場合、自己流のケアだけでは清掃に限界があります。3〜6ヶ月に1回はクリニックで歯石除去とワイヤー周辺のクリーニングを受けるのが現実的です。歯石が固まってしまうとワイヤーごと取らなければ除去できなくなり、結果として保定そのものをやり直すことになります。
固定式リテーナーは「装置を入れたら終わり」ではなく、「定期清掃とセットで初めて機能する装置」と覚えておいてください。
破損・紛失時の対応
リテーナーを失くした、割れた、ヒビが入ったときは、可能な限り早くクリニックに連絡してください。理想は当日か翌日のうちです。装着しない時間が長くなるほど、後戻りが進みます。
特に保定期間の最初の1年は、数日装着を空けるだけでも歯が動くことがあります。
連絡したうえで、新しい装置ができるまでに時間がかかる場合は、割れたリテーナーをそのまま装着し続けて構わないか、それとも装着を一時休むかをかかりつけの矯正歯科医に確認します。
「割れたから次の予約のときに相談しよう」は最もよくある失敗です。装置のトラブルは即連絡が原則です。
保定装置にかかる費用の目安
保定装置の費用は、矯正治療全体の料金体系のなかでどう扱われているかでまったく変わります。「いくらかかるか」を考える前に、「自分のクリニックの料金体系がどちらのタイプか」を確認するのが最初の一歩です。
保定装置の種類別費用
保定装置を矯正治療費とは別に支払う「処置別精算型」のクリニックの場合、保定装置の作製費は装置の種類でおおよその目安が変わります。一般的には1装置あたり1〜5万円程度、固定式やマウスピース型は3〜6万円程度の幅で設定されているクリニックが多く見られます。
一方、矯正治療費に保定装置料を最初から含む「パッケージ型」のクリニックの場合、保定装置を作る段階で追加の装置代は発生しません。
保定期間中の通院費用
装置代と別に、保定期間中は定期的な通院が必要になります。これは取り外し式・固定式どちらでも共通で、歯の位置が動いていないか、装置に問題がないか、ワイヤーや清掃状態に異常がないかを毎回チェックします。
通院費用も料金体系で扱いが分かれます。
| クリニックの料金体系 | 保定期間中の通院費用の扱い |
|---|---|
| パッケージ型(保定装置料・調整料を治療費に含む) | 1回あたり数千円の保定観察料か、無料で対応するクリニックもあり |
| 処置別精算型 | 1回あたり3,000〜5,000円程度の保定観察料 |
作り直しが発生した場合の追加費用
保定装置は何年も使う消耗品です。マウスピース型なら2〜3年、プレート型なら3〜5年程度を目安に、素材の摩耗や変形で作り直しが必要になります。固定式も、ワイヤーが外れたり折れたりすれば再装着または作り直しになります。
作り直しの費用は、ほとんどのクリニックで保定装置料には含まれません。再作製費の目安は、装置の種類によって1〜5万円程度です。
クリニックによって差がある部分なので、保定が始まる前に「作り直しになった場合の費用」を聞いておくと、突然の出費に驚かずに済みます。
紛失と破損では費用の扱いが変わるクリニックもあります。紛失の場合は再作製費を全額負担、破損の場合は減額対応、といった形です。詳細は契約内容と各クリニックの規定によります。
まとめ
保定装置は、矯正治療で整えた歯並びを骨のなかに定着させるための仕上げの装置です。装置を外した瞬間から後戻りは始まるため、最初の1年は終日装着、2年目以降は夜間中心という段階的なスケジュールで、最低2年以上の保定期間を計画的に過ごすことが必要です。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、治療費(税込50万円)には施術管理料・矯正装置代・保定装置料を含むパッケージ型を採用しており、保定装置の作製で追加費用は発生しません(毎月の調整料は別途)。初回相談は無料で実施しているため、これから矯正を検討している方は、お気軽にご相談ください。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木 善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。
矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年 徳島大学歯学部卒業
- 1997年 徳島大学大学院歯学研究科修了
- 1997年 徳島大学歯学部矯正学講座助手
- 2004年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助手
- 2007年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助教
- 2022年 矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会・認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【矯正治療(自由診療)に関する重要事項】
矯正治療(顎変形症など一部を除く)は公的医療保険が適用されない自由診療です。
- 治療内容:ワイヤーやマウスピース矯正装置を用いて歯を少しずつ動かし、歯並びと噛み合わせを整える治療
- 治療期間・回数:症例により1〜3年程度。月1回程度の通院で調整。装置除去後は2年程度の保定期間が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費500,000円(税込)、検査料70,000円(税込)、診断料30,000円(税込)、調整料6,000円(税込・毎月)。クリニックによって料金は異なります。
- リスク・副作用:装置装着初期の痛みや違和感、口内炎、歯磨きのしにくさによる虫歯・歯肉炎のリスク、歯根吸収、後戻り、まれに歯髄壊死など
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住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
アクセス地下鉄東西線「西11丁目」・「西18丁目」駅から徒歩10分
JR函館線「桑園」駅から徒歩15分 -
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