矯正と歯周病の関係とは?治療前に知っておきたいリスクと進め方
歯周病があると矯正治療を断られるのではないか、と不安に思って検索される方は少なくありません。実際には、歯周病の進行度によって「先に歯周治療を済ませてから矯正へ進む」「歯周治療と並行して矯正を進める」「矯正の適応そのものを見直す」という3つの道に分かれます。重要なのは「できるかできないか」ではなく、ご自身の歯ぐきの状態がどの段階にあり、どの順序で進めれば歯を残しながら歯並びを整えられるかです。
歯周病があると矯正できないと言われる理由
歯周病があると矯正できないと言われる背景には、矯正治療が歯を支えている骨と歯ぐきに力をかける治療であるという仕組みがあります。健康な歯周組織を前提に成り立つ治療のため、炎症や骨の減少がある状態のまま装置をつけると、歯を動かすどころか歯を失う方向に働きかねません。
ここでは、専門的にどのような理由で歯周病と矯正が両立しにくいとされているかを2つの観点から見ていきます。
矯正の力と歯周病の炎症が同時に骨に負担をかけるため
矯正治療は、歯に持続的な力をかけて歯槽骨(歯を支える骨)の中で歯をゆっくり動かしていく治療です。歯が動くとき、力がかかった側の骨は吸収され、反対側に新しい骨が作られます。この骨の代謝サイクルが正常に働くには、歯ぐきと骨が炎症のない状態でなければなりません。
歯周病で歯ぐきに炎症が続いている状態は、骨を壊す細胞(破骨細胞)が活発になっている状態です。そこに矯正の力が加わると、骨が作られるよりも壊される速度が上回り、歯を支える土台がさらに痩せる方向に進みます。矯正で動かしたい方向ではなく、骨が薄くなる方向へ歯が動いてしまうことがあるため、炎症の沈静化が先になります。
歯槽骨の量が少ないと歯の移動距離に制限が出るため
歯周病が進行すると歯を支える歯槽骨が減ります。骨が痩せた状態では、歯を動かせる範囲も狭くなります。歯は骨という土台の中を移動するため、土台が薄ければ移動できる距離も短くなり、同じ歯並びを目指しても得られる結果が変わります。
骨の減少が大きい場合、矯正で前歯を奥へ下げたい・歯のねじれを直したいといった当初の計画通りに動かせないことがあります。また、薄い骨の中で無理に歯を動かすと歯根の先が骨から飛び出してしまう「裂開」「開窓」と呼ばれる状態が起き、歯ぐきが下がる原因になります。歯周病の方の矯正では、まずレントゲン画像で骨の量を評価し、動かせる範囲の中で計画を立てることが前提になります。
歯周病の程度別に見る矯正治療の可否
歯周病といっても、軽い歯ぐきの腫れから歯がぐらつく重度まで進行度に幅があります。矯正治療をどう進められるかは、この進行度によって大きく変わります。一般的には、歯周ポケットの深さ・骨の吸収度合い・歯の動揺(ぐらつき)の3つで判断します。
ここでは、軽度・中等度・重度それぞれで矯正治療の進め方がどう変わるかを整理します。
軽度の歯周病は治療後に矯正へ移行できる
歯周ポケットの深さが3〜4mm程度で、骨の吸収もごく軽度な場合は、歯周基本治療(プラーク除去・歯石除去・ブラッシング指導)を行い、炎症が落ち着いた段階で矯正を始められます。多くの場合、歯周基本治療は数週間から数ヶ月で完了し、その後の矯正治療を健康な歯ぐきの状態で開始できます。
軽度の段階で歯周病に気づき、先に整えてから矯正を始めるのが、長期的に歯を残すうえで一番無理のない順序です。矯正治療は1〜3年単位の長期戦になるため、入口で歯ぐきの炎症をリセットしておく価値は大きいといえます。矯正前の精密検査では歯周ポケットの測定を行い、必要があればクリーニングや歯磨き指導を経てから矯正計画を立てる流れが基本です。
中等度の歯周病は歯周治療との並行管理が前提になる
歯周ポケットが4〜6mm、骨の吸収が歯根の3分の1程度まで進んでいる中等度の場合、矯正と歯周治療を完全に分けるのではなく、歯周状態を維持しながら矯正を進める形になります。具体的には、矯正開始前に歯周基本治療で炎症を落ち着かせ、矯正中も2〜3ヶ月ごとに歯周ポケット検査と歯石除去を継続します。
並行管理が必要な理由は、矯正中はワイヤーやブラケットの周囲に汚れが溜まりやすく、炎症が再燃しやすいためです。中等度の歯周病をお持ちの方が「矯正だけ進めて歯周は後回し」にすると、治療途中で歯ぐきが腫れ、矯正計画の見直しが必要になります。歯周治療と矯正の両方を見られる体制で、月1回の調整に合わせて口腔内全体を確認していくのが現実的な形です。
重度の歯周病は矯正の適応が限られる
歯周ポケットが6mmを超え、歯の動揺が強く、レントゲンで骨の吸収が歯根の半分以上に達しているような重度のケースでは、矯正治療の優先順位は下がります。土台となる骨が大幅に失われた状態で歯を動かそうとすれば、抜けてしまうリスクが現実的に高まるためです。
ただし「矯正は一切できない」という意味ではありません。歯周外科治療や再生療法などを組み合わせて骨や歯ぐきの状態を改善し、歯を残せる見通しが立った段階で部分的な矯正に進む選択肢もあります。重度の方の矯正は判断が分かれる領域のため、歯周病の専門医療機関と矯正歯科が連携して長期的に方針を立てるのが基本です。
重度の歯周病でも諦めずにまずは歯周治療の体制を整え、可能な範囲で噛み合わせの改善につなげていくご相談にも応じています。
歯周病を放置したまま矯正するとどうなるか
「軽い歯ぐきの腫れだから、矯正しながら治していけばいいだろう」と考えて始めてしまうと、矯正の途中で予想外のトラブルにつながることがあります。歯周病は痛みが出にくい病気のため自覚症状が乏しく、矯正の力が加わってはじめて症状が表に出るケースも少なくありません。ここでは、歯周病を放置したまま矯正を始めた場合に実際に起こりうる3つの状況を整理します。
歯肉退縮で歯が長く見えるようになる
歯ぐきの炎症が続く状態で矯正の力が加わると、歯ぐきが歯から離れて下がっていく「歯肉退縮」が起きやすくなります。退縮が進むと、それまで歯ぐきに隠れていた歯の根元が露出し、矯正で歯並びは整ったのに歯が以前より長く見えるという、見た目の問題に直結する変化が出ます。
歯肉退縮は一度起きると自然には戻りません。矯正治療の前と後で「歯が伸びたように見える」ことを避けるためには、歯ぐきが下がる素地(炎症・骨の薄さ)を矯正前に整えておくことが必要です。特に前歯の歯ぐきが薄い方は、矯正の力で唇側へ歯を動かす計画があるとき、歯肉退縮のリスクをあらかじめ評価しておくべき領域です。
骨の吸収が加速し歯の動揺が強まる
骨吸収のメカニズムは、歯周病を放置したまま矯正を始めた場合に最も現実的なリスクとして現れます。健康な歯ぐきの方なら問題なく動く程度の矯正力でも、炎症のある歯では骨が想定以上に減り、歯がぐらつくという事態につながります。
歯がぐらつくと、まず矯正治療そのものが進めにくくなります。動揺が強い歯にはブラケットで力をかけにくく、力をかけても狙った方向に動かない場合があります。さらに動揺が進むと、最悪の場合は治療途中で歯を失うリスクもあります。
「歯ぐきが少し腫れているくらい」という認識のまま矯正を始めるのは、骨吸収が想定外に加速する可能性を見落とした判断になりやすい点に注意が必要です。
矯正中の歯周病悪化で治療が中断になる場合がある
矯正治療を進めている途中で歯周病が悪化すると、装置を一時的に外すという判断が必要になることがあります。激しい炎症が起きている歯ぐきの上にワイヤーやブラケットがある状態は、ブラッシングが届かず炎症がさらに悪化する悪循環を生むためです。
装置を外して歯周治療に集中する期間は数ヶ月単位になることが多く、その間に歯が後戻りすることもあります。この場合、再開後に矯正計画を立て直す必要があり、当初予定していた治療期間より長引きます。費用面でも、追加の歯周治療や装置の再装着で計画外の支出が発生する点は頭に入れておきたいところです。
矯正治療が歯周病の予防につながる面もある
ここまで歯周病が矯正治療を難しくする側面を見てきましたが、視点を変えると矯正治療には歯周病の予防に役立つ側面もあります。歯並びと歯周病はお互いに影響し合う関係にあり、整った歯並びは歯周病の予防にプラスに働くという見方ができます。歯周病があるからこそ、長期的には矯正治療を選んだほうが歯を残しやすいという判断が成り立つケースもあります。
歯並びの改善で磨き残しが減りプラークコントロールが向上する
歯が重なっていたりねじれていたりする部位は、歯ブラシの毛先が届きにくく、磨いているつもりでも磨き残しが残りやすい場所です。プラーク(歯垢)が残った部位は歯周病菌の温床になり、その部分から歯ぐきの炎症が始まります。矯正で歯並びを整えると、毎日の歯磨きで届く面積が増え、磨き残しの「常連場所」が減るという変化が生まれます。
毎食後のブラッシングが同じ時間でも効果的になるため、長期的なプラークコントロールが楽になります。歯周病になりやすい方ほど、この「磨きやすさの向上」のメリットは大きく出ます。
咬合の安定が歯周組織への過度な負担を減らす
噛み合わせがずれていると、特定の歯だけに強い力がかかる「外傷性咬合」と呼ばれる状態になります。本来であれば全ての歯で分散して受け止めるべき噛む力が、一部の歯に集中してしまうため、その歯の周りの骨と歯ぐきは慢性的に負担を受けます。歯周病で骨がすでに減っている歯にこの集中した力が加わると、骨吸収を一段と進めてしまいます。
矯正で噛み合わせを整えると、全ての歯がバランスよく力を受け止められるようになります。1本あたりが受ける負担が減り、歯周組織への慢性的なストレスが軽減されます。歯周病の進行を完全に止めるわけではありませんが、噛み合わせの安定は歯を残すための土台条件として軽視できません。
矯正中に歯周病を悪化させないためのケア
矯正治療を始めると、装置の周りに食べ物のカスやプラークが溜まりやすくなります。歯周病を持っていない方でも歯ぐきの炎症が起きやすい時期のため、歯周病の方や歯周病になりやすい方は通常以上にケアが必要です。装置の種類によってケアのポイントが変わるため、ご自身の装置に合わせたケアを身につけることが大切になります。
ワイヤー矯正中はブラケット周囲の清掃が鍵になる
ブラケット(歯に接着する小さな部品)とワイヤーが歯の表面にあるワイヤー矯正では、ブラケットの周囲・ワイヤーの下・歯と歯の間の3か所が磨き残しの温床になります。普通の歯ブラシだけでは届かないため、毛先の細い「ワンタフトブラシ」と「歯間ブラシ」を組み合わせるのが基本のケアです。
ワンタフトブラシはブラケットの上下と周囲をなぞるように使い、歯間ブラシはワイヤーの下を通して歯と歯の間を清掃します。慣れるまでは1回の歯磨きに10分程度かかりますが、習慣化すれば矯正中も歯ぐきの炎症を起こさずに過ごせます。セラミックブラケットとホワイトワイヤーのような透明感のあるタイプも、メタルブラケットも、装置の構造として磨き残しが起きやすい場所は同じです。
マウスピース矯正は装着前後の口腔ケアが重要になる
取り外し可能なマウスピース矯正(アライナー矯正)の場合、装置を外して歯磨きができるためワイヤー矯正よりも清掃しやすいというメリットがあります。一方で、装着前に歯を磨かずにマウスピースをはめると、汚れごと歯を密閉してしまい、歯周病菌が活動しやすい環境を作ります。
装置を再装着する前には必ずブラッシングと洗口を済ませ、マウスピース自体も流水で洗ってから装着するのが基本です。
定期的なプロフェッショナルケアで炎症を早期に発見する
毎日のセルフケアをどれだけ丁寧に行っても、矯正中は装置の影響でどうしても磨き残しが発生します。月1回の調整時にあわせて歯科衛生士によるクリーニングを受けると、ご自身では取り切れないプラークと歯石を除去し、初期の炎症を見逃さない体制になります。
まとめ
歯周病があるからといって矯正をあきらめる必要はありません。判断の軸は3つです。
1つ目は、歯周ポケットと骨の吸収度合いから「軽度・中等度・重度」のどこに当てはまるかを正確に把握すること。
2つ目は、矯正の前または並行で歯周治療を必ず行い、炎症のない土台を作ってから歯を動かすこと。
3つ目は、矯正中も月単位でセルフケアとプロフェッショナルケアを続け、装置の周りの磨き残しを最小化することです。
このように、適切な順序で進めれば、矯正治療は歯並びを整えるだけでなく、磨きやすさの向上と咬合の安定を通じて、長期的に歯を残すことに役立つ治療になります。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、大学病院で約30年にわたり複雑な矯正症例に向き合ってきた経験を活かし、CT検査と精密診断を踏まえて進め方をご相談いただけます。歯周治療と矯正治療の両方を見据えた管理体制を整えていますので、まずは相談の段階で現在の歯ぐきの状態を確認するところから始めていただけます。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木 善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。
矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年 徳島大学歯学部卒業
- 1997年 徳島大学大学院歯学研究科修了
- 1997年 徳島大学歯学部矯正学講座助手
- 2004年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助手
- 2007年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助教
- 2022年 矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会・認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【矯正治療(自由診療)に関する重要事項】
矯正治療(顎変形症など一部を除く)は公的医療保険が適用されない自由診療です。
- 治療内容:ワイヤーやマウスピース矯正装置を用いて歯を少しずつ動かし、歯並びと噛み合わせを整える治療
- 治療期間・回数:症例により1〜3年程度。月1回程度の通院で調整。装置除去後は2年程度の保定期間が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費500,000円(税込)、検査料70,000円(税込)、診断料30,000円(税込)、調整料6,000円(税込・毎月)。クリニックによって料金は異なります。
- リスク・副作用:装置装着初期の痛みや違和感、口内炎、歯磨きのしにくさによる虫歯・歯肉炎のリスク、歯根吸収、後戻り、まれに歯髄壊死など
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住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
アクセス地下鉄東西線「西11丁目」・「西18丁目」駅から徒歩10分
JR函館線「桑園」駅から徒歩15分 -
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