重度の出っ歯を矯正で治すには?原因別の見極め方と治療の選び方
重度の出っ歯で悩まれている方が最初に直面する分かれ道は、「歯並びだけの問題なのか、顎の骨格そのものが前に出ているのか」という見極めです。日本矯正歯科学会の解説でも、上顎前突は前歯の傾きによるものと、顎の位置関係によるものに分けて考える必要があると示されています。この見極め方が決まると、矯正だけで治せるのか、外科的な処置を併用するのかという治療の方向性が見えてきます。
重度の出っ歯とは?軽度との違いと判断の目安
「重度」という言葉が一人歩きしやすい部分なので、まずは数値で見える基準と、ご自身でも確認できる目安を整理します。
オーバージェットで見る重度の基準
出っ歯の程度を測る代表的な数値が「オーバージェット」です。上の前歯と下の前歯を上下で重ねたとき、上の前歯が下の前歯より前にどれくらい出ているか、その水平距離をミリ単位で測ります。標準的な噛み合わせでは2〜3mm程度が一般的な目安です。
矯正歯科の臨床では、オーバージェットが4〜5mm程度を軽度〜中等度、6mm以上を重度として扱うケースが多くなります。6mmを超えてくると、唇を自然に閉じることが難しくなる、前歯で食べ物を噛み切れない、転倒や事故で前歯をぶつけたときに折れやすいといった機能的な問題が表面化しやすくなります。
ただしオーバージェットの数値だけで治療方針が決まるわけではありません。同じ7mmでも、前歯の傾きが原因のケースと、顎の骨格そのものがズレているケースでは、選ぶべき治療法が大きく変わります。「重度かどうか」より「なぜ重度になっているか」のほうが治療計画上は重要、という捉え方をしていただくとわかりやすいかと思います。
自分でチェックできるポイント
正確な診断はレントゲンや模型を使った精密検査が前提ですが、ご自身でも「重度寄りかどうか」の目安をつけることはできます。鏡の前で確認しやすい4つのポイントをご紹介します。
- 唇を力を入れずに閉じたとき、自然に閉じるか(閉じようとすると顎の先に梅干しのようなシワが寄る場合は要注意)
- 横顔を見たとき、鼻先と顎先を結んだライン(Eライン)よりも上唇が大きく前に出ていないか
- 前歯で麺類やサンドイッチを噛み切るのに不自由を感じないか
- 「サ行」「タ行」の発音で、息が漏れたり舌っ足らずな響きになったりしないか
複数の項目に当てはまるようでしたら、重度に近い状態である可能性があります。気になる項目が一つでもある段階で矯正歯科に相談していただくと、後々の選択肢が広がります。
重度の出っ歯が起きる2つの原因
重度の出っ歯は大きく分けて2つのタイプに分類されます。「上の前歯が前に傾斜している」場合と「上の歯並び全体(あるいは上顎の骨そのもの)が前に出ている」場合です。
原因によって治療の難易度も変わるため、ご自身がどちらのタイプに近いかを意識しておくと、診察時の理解が深まります。
歯が前方に傾いている「歯槽性」の出っ歯
歯槽性(しそうせい)の出っ歯は、顎の骨の位置はおおむね正常でありながら、前歯の生えている角度が前方に倒れている状態を指します。指しゃぶりや舌で前歯を押す癖、口呼吸の習慣などが続くと、成長期に前歯が前方へ傾きやすくなります。
このタイプは「歯の角度を後ろに戻す」ことで改善が期待できる範囲のため、原則として矯正治療だけで対応できるケースが多くなります。重度であっても、奥歯のスペースを利用して前歯を後退させたり、必要に応じて第一小臼歯(前から4番目の歯)を抜歯してスペースを確保するなど、外科手術を伴わない方針で治療計画を組めることがほとんどです。
ただし「歯だけの問題」と判断するには、レントゲン上で顎の骨格の位置を客観的に確認する必要があります。横顔の見た目だけでは骨格と歯の角度の影響を切り分けにくいため、ここは矯正専門の診断にお任せいただきたい部分です。
顎の骨が前に出ている「骨格性」の出っ歯
骨格性の出っ歯は、上顎の骨そのものが前方に位置している、あるいは下顎が後方に下がっている状態が原因になっています。歯の傾きには大きな問題がなく、骨格の前後関係が崩れていることで前歯が前に出て見えるタイプです。日本人の場合、下顎が後ろに引っ込んでいることで上顎前突に見えるケースも少なくありません。
このタイプの難しさは、歯を動かすだけでは骨格そのもののズレが解消されない点にあります。軽度〜中等度であれば歯の角度調整で「見た目を整える」ことは可能ですが、ズレが大きい重度のケースでは、矯正治療だけでは噛み合わせの根本改善や横顔のバランス改善が難しくなります。その場合に検討されるのが、後述する外科的な処置を併用する治療法です。
成長期のお子様であれば、ヘッドギアやフェイスマスクなどの機能的矯正装置で顎の成長方向をコントロールし、骨格性の前突を予防的に整える選択肢も出てきます。成長期を過ぎてから来院される場合に治療の選択肢が狭まるのは、この成長コントロールの機会を活かせなくなるためです。
重度の出っ歯を放置するとどうなるか
「見た目が気になるけれど、痛みがあるわけではないから」と治療を先送りされる方は少なくありません。ただし、重度の出っ歯は見た目だけの問題ではなく、お口全体の健康や日常生活にじわじわと影響していきます。ここでは特に放置による影響が出やすい3つのリスクを取り上げます。
口が閉じにくいことで起きる口腔乾燥のリスク
重度の出っ歯では、安静時に唇を自然に閉じることが難しく、無意識のうちに口呼吸が習慣化しやすくなります。口で呼吸する時間が長くなると、お口の中が常に乾いた状態になります。
唾液には食べカスを洗い流す作用、酸を中和する作用、再石灰化を促す作用など、虫歯と歯周病から歯を守る役割が複数あります。唾液が行き渡りにくい乾いた口内では、これらの防御機能が落ち、特に前歯のあたりで虫歯や歯肉の炎症が進みやすくなります。「歯磨きはしっかりしているのに前歯だけ虫歯になりやすい」という方は、口呼吸の影響を受けている可能性があります。
加えて、口呼吸は寝ている間のいびきや、起床時の喉の痛み・口臭にもつながります。出っ歯を整えることでお口を閉じやすくなり、これらの不調がまとめて軽くなるケースは臨床でもよく経験する変化です。
前歯が噛み合わないことによる食事や発音への影響
前歯の本来の役割は、食べ物を「噛み切る」ことです。重度の出っ歯では上下の前歯が噛み合わないため、麺類やサンドイッチ、葉物野菜などを前歯で切り分けにくくなります。気づかないうちに奥歯に負担を集中させていることが多く、長年続くと奥歯のすり減りや歯根への負担が蓄積していきます。
発音面では、サ行・タ行・ナ行・ラ行のように舌先を上の前歯の裏に当てて発音する音が不明瞭になりやすい傾向があります。前歯の隙間から息が漏れることで、はっきり発音しているつもりでも相手に聞き取りづらく伝わってしまう状態です。お子様の場合は構音発達への影響、成人の方の場合は接客や講師業など人前で話す場面でのストレスにつながることがあります。
転倒時に前歯を破折しやすい
意外と見落とされがちなのが外傷リスクです。日本矯正歯科学会も、上顎前突の状態では「顔のケガで前歯を折ったり、くちびるを切ったりしやすい」と注意を促しています。前歯が突出していて唇に覆われていない時間が長いほど、転倒や衝突の際に前歯が直接ぶつかる確率が上がるためです。
スポーツ中の接触や自転車からの転倒、お子様の場合は遊んでいる最中の転倒など、日常の中に外傷リスクは意外と多く潜んでいます。前歯を破折すると、神経を取る根管治療が必要になったり、最悪の場合は抜歯と補綴(クラウンやブリッジ、インプラント)に至るケースもあります。矯正で前歯の位置を後ろに整えることは、見た目の改善にとどまらず、こうした将来の外傷からご自身の歯を守ることにもつながります。
重度の出っ歯に対応できる矯正治療の種類
重度の出っ歯では、軽度のケースより治療法の選択肢が絞られます。ここでは代表的な3つの治療アプローチを、どんなケースに向くかを軸に整理します。
ワイヤー矯正(表側・舌側)の特徴
ワイヤー矯正は、歯一本一本にブラケットと呼ばれる装置を接着し、ワイヤーの力で歯を動かしていく方法です。重度の出っ歯のように歯の移動量が大きい症例でも対応しやすく、矯正治療のなかでもっとも歴史と実績がある方式です。
歯の表側にブラケットを付ける表側矯正と、歯の裏側に付ける舌側矯正(裏側矯正)に分かれます。舌側矯正は外からほぼ見えませんが、対応している矯正歯科が限られる、舌が当たる違和感が出やすい、費用が高くなりやすいなどが注意点です。
装置の見た目と費用・違和感のバランスをどう取るかは、カウンセリングの段階で率直にご相談ください。
マウスピース矯正が適応になるケース
マウスピース矯正は、透明な樹脂製のマウスピースを段階的に交換していくことで歯を動かしていく方法です。装置が目立たない、取り外して食事や歯磨きができるといった日常生活上のメリットが大きく、近年広く普及してきました。
ただし重度の出っ歯では、歯の移動量や移動方向に制限があり、マウスピース矯正だけで完結できないケースが出てきます。特に骨格性の関与が大きい場合や、抜歯を伴う大きな歯の後退が必要な場合は、ワイヤー矯正やワイヤーとの併用が現実的な選択肢になることが少なくありません。
マウスピース矯正が適応になるかの判断は、メーカーごとの仕様や担当医の経験にも左右されます。重度のケースでマウスピース矯正を希望される場合は、対応実績のある矯正歯科で精密検査を受け、ご自身のケースで本当に適応になるかを確認していただくと安心です。
外科矯正が必要になるケース
骨格性の重度上顎前突で、矯正治療だけでは噛み合わせと顔貌の改善が難しいと判断されたケースでは、外科矯正(顎変形症手術)が選択肢に入ってきます。上顎または下顎の骨を一部切り、顎の位置を適切な前後関係に動かしたうえで、矯正治療で歯並びを整える治療法です。
外科矯正の大きな特徴は、日本矯正歯科学会・厚生労働大臣指定の施設基準を満たす医療機関で実施する場合、健康保険が適用される点です。
当院の院長は徳島大学・札幌医科大学で約30年にわたり、顎変形症や口腔外科の領域で診療と研究に携わってきました。重度の骨格性上顎前突に対する外科矯正のご相談にも対応しております。「自分が外科矯正の対象になるかわからない」という段階でも、診断のうえで治療法の見通しを一緒に整理しますので、お気軽にご相談ください。
矯正専門クリニックで受ける重度の出っ歯治療の流れ
重度の出っ歯の治療は、装置を付けたら終わりではなく、検査・装置による歯の移動・保定(後戻り防止)の3つのフェーズが続きます。全体像を最初に把握しておくと、長期にわたる治療を見通しよく続けやすくなります。
カウンセリングから治療開始までのステップ
来院いただいてから装置を装着するまでは、いくつかのステップを踏みます。一般的な流れは次のとおりです。
- 初回相談(無料のケースも):お悩み・ご希望を伺い、お口の中を診察したうえで、想定される治療法と費用感を大まかにご説明
- 精密検査:レントゲン撮影、口腔内写真、歯型の採得などにより、骨格・歯・噛み合わせを多角的に評価
- 診断・治療計画のご説明:検査結果をもとに、複数の治療オプションと、それぞれのメリット・期間・費用・リスクをお伝え
- 同意・契約:治療計画にご納得いただいたうえで治療開始へ
このステップの中で特に大切にしたいのが「精密検査と診断のご説明」です。重度の出っ歯では、骨格性か歯槽性か、抜歯を伴うか、外科矯正の対象になるかなど、判断材料が多くなります。一度のご説明で全部を消化していただく必要はありません。
気になる点はその場で聞き返していただいて構いませんし、「持ち帰って家族と相談したい」というご要望もよくあるご相談です。
治療中の通院頻度と生活への影響
矯正装置を装着してから歯並びが整うまでの期間は、軽度の症例で半年程度、通常の不正咬合では2〜3年程度が一般的な目安です。重度のケースは下限ではなく上限寄りになる傾向で、外科矯正を伴う場合はさらに長くなることがあります。
通院は月1回前後の調整が一般的です。1回あたりの所要時間は30分〜1時間程度で、ワイヤーの調整や装置の点検、虫歯や歯肉炎のチェックを行います。日常生活面では、ワイヤー矯正の場合は粘着性のある食品(キャラメル・ガム)を避ける、装置の周りを丁寧に磨く、といった注意点を覚えていただく必要があります。
矯正期間中に思いがけず気になることが出てくるのは珍しくありません。「装置が口の中に当たる」「思っていたほど歯が動いていない気がする」「結婚式の予定があるけれど装置の見た目が気になる」など、ご相談いただく内容はさまざまです。長い治療を続けるうえで一番大切なのは、不安や疑問を抱え込まずにその都度お話しいただくことです。
担当医との対話を遠慮なく重ねられる環境かどうかは、治療法の選び方と同じくらい重要なポイントだと考えています。
保定期間の過ごし方
歯並びが整って装置を外したあとも、矯正治療は終わりではありません。動かした直後の歯は周囲の骨や歯肉がまだ落ち着いておらず、何もしなければ元の位置に戻ろうとする力(後戻り)が働きます。これを防ぐために装着するのが保定装置(リテーナー)です。
保定期間は装置で歯を動かしていた期間と同程度(多くの場合2〜3年以上)必要になり、特に最初の1年は装着時間を長く取る必要があります。保定装置はマウスピース型・ワイヤー型などいくつかタイプがあり、それぞれ装着のしやすさや見た目に違いがあります。生活スタイルに合わせて担当医と一緒に選んでいきます。
保定期間中は装着時間を守ることが何より大切です。「面倒だから外したまま過ごしてしまった」が積み重なると、せっかく整えた歯並びが崩れて再治療になる可能性があります。重度の出っ歯ほど元の状態に戻ろうとする力が強い傾向にあるので、保定期間も含めて治療と捉えていただくと、長期的な仕上がりが安定します。
まとめ
重度の出っ歯は、見た目の悩みだけでなく、口腔乾燥・前歯の機能不全・外傷リスクといった健康面の影響を伴う症状です。治療法を選ぶうえで最も重要なのは、ご自身が歯槽性なのか骨格性なのかを見極めること。歯槽性であれば矯正治療だけで対応できる可能性が高く、骨格性で重度のケースでは外科矯正の選択肢が現実味を帯びます。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、初回のご相談を無料で承っています。重度の上顎前突や顎変形症の症例にも、大学病院での経験を踏まえてご一緒に治療計画を考えていきますので、判断に迷う段階でも遠慮なくお声がけください。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木 善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。
矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年 徳島大学歯学部卒業
- 1997年 徳島大学大学院歯学研究科修了
- 1997年 徳島大学歯学部矯正学講座助手
- 2004年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助手
- 2007年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助教
- 2022年 矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会・認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【矯正治療(自由診療)に関する重要事項】
矯正治療(顎変形症など一部を除く)は公的医療保険が適用されない自由診療です。
- 治療内容:ワイヤーやマウスピース矯正装置を用いて歯を少しずつ動かし、歯並びと噛み合わせを整える治療
- 治療期間・回数:症例により1〜3年程度。月1回程度の通院で調整。装置除去後は2年程度の保定期間が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費500,000円(税込)、検査料70,000円(税込)、診断料30,000円(税込)、調整料6,000円(税込・毎月)。クリニックによって異なります。
- リスク・副作用:装置装着初期の痛みや違和感、口内炎、歯磨きのしにくさによる虫歯・歯肉炎のリスク、歯根吸収、後戻り、まれに歯髄壊死など
-
-
住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
アクセス地下鉄東西線「西11丁目」・「西18丁目」駅から徒歩10分
JR函館線「桑園」駅から徒歩15分 -
駐車場駐車場はクリニックの裏、マンション敷地内15番ですが、使用中の場合は近隣駐車場に停めてください。受付で駐車券を提示し申告していただけましたら1時間無料チケットをお渡しします。
-
-
予約について
診療時間 月 火 水 木 金 土 日 10:00 ~ 13:00 - - ● ● ● ● ▲ 14:00 ~ 18:00 - ● - - ● ● ▲ 休診日/月曜日・火曜日午前・水曜日午後・木曜日午後・隔週日曜日・祝日
※1 日曜日は隔週
※ 最終受付は17時30分
マイナンバーカードでの受付OK
各種キャッシュレス決済OK診療科目:矯正歯科