矯正中に歯がしみる…知覚過敏の原因と自分でできる対処法を歯科医が解説
矯正治療中に冷たい水や風で歯がしみる症状は、多くの場合、歯の移動にともなう一時的な知覚過敏です。ただし、冷たいものだけでしみるのか、温かいものでもしみるのか、何もしなくても痛むのかによって疑うべき原因が変わります。この見分け方を知っておくと、自宅で様子を見てよい段階と、矯正歯科医に連絡すべきタイミングを自分で判断しやすくなります。
矯正中の知覚過敏はなぜ起こるのか
歯がしみる知覚過敏は、本来エナメル質に覆われている象牙質が露出し、内部の象牙細管を通じて刺激が神経に伝わることで起こります。矯正治療中は、歯を動かす過程でこの仕組みが働きやすい状態が生まれます。
歯の移動で歯と歯茎の間にすき間ができるため
矯正治療では歯根に力をかけて歯を動かしていきます。歯が移動する際に、歯と歯茎の間に一時的なすき間が生じることがあります。これまで歯茎や隣の歯に覆われていた歯面が露出し、冷たい飲み物や風が象牙質に直接触れるようになることで、しみるような痛みを感じるようになります。
IPR(歯の間を削る処置)後の刺激によるもの
矯正治療では、歯と歯の間をわずかに削ってスペースを確保するIPR(Interproximal Reduction)を行うことがあります。削る量はエナメル質の範囲内(1歯あたり0.1〜0.5mm程度)にとどめるため、象牙質が露出するわけではありません。しかし、エナメル質が薄くなることで一時的に刺激が伝わりやすくなり、数日間しみることがあります。
ブラッシングの力加減が強すぎるため
矯正装置をつけていると「汚れを残したくない」という意識から、歯磨きに力が入りすぎることがあります。強い圧でのブラッシングを繰り返すと、エナメル質が摩耗して象牙質が近づくだけでなく、歯茎が退縮して歯根が露出する原因にもなります。
歯根の表面にはエナメル質がなく、象牙質がむき出しの状態です。歯茎が下がって歯根が露出すると、しみる症状が出やすくなります。磨いたあとに歯ブラシの毛先が広がっていないか、鏡で確認できる程度の軽い力が目安です。
鉛筆を持つように歯ブラシを支える「ペングリップ」で磨くと、握りこむより力をコントロールしやすくなります。一度退縮した歯茎は元の位置に戻りにくいため、強く磨く癖はできるだけ早い段階で見直す価値があります。
矯正装置まわりの磨き残しが影響するため
ワイヤー矯正ではブラケットやワイヤーの周囲に汚れが溜まりやすく、磨き残しが増えると歯の表面で酸が生成されます。酸によってエナメル質の表面が脱灰(溶け始めた状態)すると、歯の防御機能が低下して刺激に敏感になります。
脱灰の段階であれば、フッ素入り歯磨き粉の使用と丁寧なブラッシングで再石灰化を促すことが期待できます。矯正装置が入っている期間はセルフケアの難易度が上がるため、定期的なクリーニングで磨き残しをリセットすることが、知覚過敏だけでなく虫歯予防の面でも有効です。
しみる症状が出たときに自分でできる対処法
知覚過敏用の歯磨き粉や日常的なケアの見直しなど、自宅で取り組める方法を紹介します。すべての方法が即効性を持つわけではなく、継続して初めて効果が実感できるものもあります。
知覚過敏用の歯磨き粉を使う
知覚過敏用の歯磨き粉には、主に2つの薬用成分が含まれています。
| 成分 | 作用の仕組み | 効果の出方 |
|---|---|---|
| 硝酸カリウム | 歯の神経の興奮を抑え、刺激の伝達を遮断する | 比較的短期間で効果を感じやすい |
| 乳酸アルミニウム | 象牙細管の開口部を物理的にふさぎ、刺激の侵入を防ぐ | 継続使用で徐々に効果が蓄積される |
硝酸カリウムと乳酸アルミニウムの両方が配合された歯磨き粉を選び、磨いたあとは少量の水で軽くゆすぐ程度にとどめると、薬用成分が歯面に残り、神経への伝達遮断と象牙細管の封鎖を同時にケアできます。即効性のあるタイプではないため、2週間程度は続けて使ってみて効果を判断します。
ブラッシング方法を見直す
しみる部分があるときは、やわらかめの歯ブラシに切り替え、ペングリップで持つことを意識します。毛先が歯面に当たったときに「しなる」程度の力が適切で、毛先が広がるほど押し付けるのは力が強すぎるサインです。
磨き方はゴシゴシと大きく動かすのではなく、1〜2歯ずつ小刻みに動かします。特にしみる歯のまわりは、歯と歯茎の境目に毛先を45度の角度で当てる「バス法」と呼ばれる磨き方が、歯茎を傷めにくい方法です。ワイヤー矯正中は、装置のまわりに汚れが溜まりやすい一方で力を入れて磨くと歯茎を痛めやすいため、先端が細い1列の「タフトブラシ」を併用して、ピンポイントに汚れを掻き出すようにするとよいでしょう。
冷たいものや酸性の食品を一時的に控える
しみる症状が強いときは、氷を入れた飲み物や冷たいデザートなど、直接的な温度刺激を避けるだけで症状が和らぐことがあります。飲み物は常温にする、ストローを使って歯に直接当てないようにするなど、ちょっとした工夫で刺激を減らせます。
また、炭酸飲料・柑橘類・酢の物などの酸性が強い食品は、エナメル質を一時的に軟化させて知覚過敏を悪化させる場合があります。食事の直後は口の中が酸性に傾いているため、30分ほど時間を置いてから歯を磨くと、軟化したエナメル質をブラッシングで削るリスクを減らせます。
歯科医院で受けられる処置と受診の目安
セルフケアで改善しない場合や、症状が日常生活に支障をきたすレベルの場合は、歯科医院での処置が必要です。矯正治療中であれば、担当の矯正歯科医師に相談しましょう。
しみ止め薬の塗布とコーティング処置
歯科医院で行う知覚過敏の処置として一般的なのが、フッ素を含むしみ止め薬の塗布です。露出した象牙質の表面をコーティングし、外部からの刺激が神経に伝わるのを防ぎます。コーティング剤は日々の食事やブラッシングで徐々にはがれていくため、症状が続く間は数週間おきに塗布を繰り返すことがあります。
症状が強く、コーティング剤では効果が長続きしない場合は、歯科用のプラスチック素材であるコンポジットレジンで露出部分を覆う方法を検討します。
どの方法を選ぶかは、しみている歯の状態・原因・矯正治療の進み具合によって異なるため、歯科医師と相談しながら決めていきます。
セルフケアで改善しないときの受診タイミング
矯正中の知覚過敏は一過性のものが多いものの、以下のような場合は早めの受診が必要です。
- 知覚過敏用の歯磨き粉を2週間以上使っても改善しない
- しみる痛みが日に日に強くなっている
- 温かいものでもしみるようになった
- 何も口にしていないのにズキズキと痛む
特に、温度刺激がないのに自発的な痛みがある場合は、知覚過敏ではなく虫歯や歯髄炎(歯の神経の炎症)が原因の可能性があります。矯正装置をつけていると自分で口の中を確認しにくいため、「いつもと違う痛み」を感じた時点で、次の調整日を待たずに矯正歯科へ連絡してください。
矯正治療中の知覚過敏はいつまで続くのか
矯正中のしみる症状は「どの原因で起きているか」によって続く長さが変わります。歯の動きにともなう一過性のものか、ブラッシング圧などによる継続的な要因かを見分けることが、対処の見通しを立てるうえで役立ちます。
原因ごとに異なる回復の目安
知覚過敏の持続期間は、原因によって以下のような違いがあります。
| 原因 | 症状が続く目安 | 回復のメカニズム |
|---|---|---|
| 歯の移動によるすき間 | 数日〜数週間程度 | 歯茎が新しい位置に適応し、すき間がなくなる |
| IPR後の一時的な刺激 | 数日〜2週間程度 | 唾液による再石灰化でエナメル質表面が修復される |
| ブラッシング圧による歯茎退縮 | 数週間〜数ヶ月程度 | ブラッシング改善後、歯茎の状態が安定する |
| 脱灰による防御機能低下 | 数週間〜数ヶ月程度 | フッ素塗布・再石灰化の促進で改善が期待できる |
歯の移動にともなう知覚過敏は一過性で、歯が新しい位置に安定すれば自然に治まるケースが大半です。一方、退縮した歯茎は元の位置に戻りにくいため、ブラッシング圧が原因のしみる症状は、磨き方の見直しと歯科医院でのコーティング処置を組み合わせて長く付き合っていく前提で対応します。
矯正終了後も知覚過敏が残ることはあるのか
矯正治療を終え、保定装置(リテーナー)に移行したあとも、しばらくしみる症状が残ることがあります。歯を動かしていた力がなくなった直後は歯を支える歯根膜がまだ安定しておらず、刺激に対して過敏な状態が続くためです。多くの場合、保定期間に入ってから1〜3ヶ月程度で症状は落ち着きます。
ただし、矯正治療中にブラッシング圧で歯茎が下がっている場合は、矯正終了後もしみる症状が残ることがあります。保定の通院時にしみる場所と程度を伝えれば、しみ止め薬の塗布や磨き方の調整など、原因に応じた対応をお伝えします。
長い治療期間を安心して過ごすための「伝え方」
矯正治療は1年〜3年程度の期間を要し、その間に知覚過敏をはじめとするさまざまな変化が口の中で起こります。症状が出たときに的確に伝えることで矯正歯科医は原因を絞り込みやすくなり、対応のスピードも上がります。
症状を正確に伝えるための3つのポイント
しみる症状は原因によって対処法が変わるため、受診の際に次の3点を整理してお伝えいただくと、医師が原因を見立てやすくなり、ご自身の症状に合った対処法を相談しやすくなります。
- いつからしみるか(装置の調整後、IPR後、最近になって突然など)
- どんな刺激でしみるか(冷たいもの、温かいもの、風、歯ブラシの接触など)
- しみる場所はどこか(上の奥歯、下の前歯など)
「冷たいものだけしみる」のは知覚過敏の典型的な症状である場合が多く、「温かいものでもしみる」「何もしなくてもズキズキする」場合は歯の神経の問題が疑われるため、この情報が診断の手がかりになります。
定期通院でのこまめな相談が早期対応につながる
矯正治療中は月に1回程度の通院があります。このタイミングで「少ししみるけれど我慢できる程度」の症状もあわせて伝えておくと、矯正歯科医が軽度の段階から状況を把握でき、磨き方の指導やしみ止め薬の塗布など、症状が強くなる前に対応の手を打てます。
矯正治療は長い期間をかけて歯並びを整えていく治療です。途中で起きる小さな違和感も気軽に相談できる関係性が、結果として治療全体の安心感と仕上がりの質につながります。「こんな小さなことで連絡してもいいのか」と迷われる方もいらっしゃいますが、気になる症状はどんなことでも遠慮なくお話しください。
早めに状況を共有していただけると対応の選択肢も広がり、安心して治療を続けていただけます。
まとめ
矯正中の知覚過敏について、押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 歯の移動やIPRにともなう一時的な症状が大半で、数日〜数週間で軽減することが多い
- セルフケアは知覚過敏用歯磨き粉とやわらかめの歯ブラシ、ペングリップでの軽い圧が基本
- 2週間以上改善しない、温かいものでもしみる、自発痛があるときは早めに受診する
ご自身で原因を見分けるのは難しい場面も多く、判断に迷ったときに相談できる主治医がいることが、長い治療期間を安心して過ごす支えになります。歯並びや矯正治療で気になることがあれば、まずは一度ご相談にお越しください。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、大学病院で長く矯正・口腔外科治療に携わってきた院長が、お一人お一人の歯並びとライフスタイルに合わせた治療の進め方をお話ししながら一緒に考えます。相談料は無料ですので、すぐに治療を決める必要はありません。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年:徳島大学歯学部 卒業
- 1997年:徳島大学大学院歯学研究科 修了
- 1997年:徳島大学歯学部 矯正学講座 助手
- 2004年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助手
- 2007年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助教
- 2022年:矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会 認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
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