矯正で滑舌は良くなる?歯並びとの関係から治療中の対策まで解説
滑舌の良し悪しを決めているのは「歯の位置」と「舌・唇の使い方」の2つあり、矯正で動かせるのは前者だけです。歯並びが原因で発音がぼやけているケースは矯正で改善が見込めますが、舌の癖や筋力が主因のケースは矯正単独では変わりません。まずは歯並びと滑舌の関係を把握しておくことで、矯正の相談時に自分のケースでどの程度の改善が見込めるかを判断しやすくなります。
滑舌が悪くなる原因は歯並びだけではない
滑舌に影響する要因は複数あります。まずは自分の滑舌の悩みがどこに由来するのかを見極めることが、改善への第一歩になります。
発音は「舌・唇・歯」の共同作業で成り立っている
日本語の音は、舌のどこを・口の中のどこに当てるか、唇をどう動かすか、上下の歯のすき間をどう使うかの組み合わせで作られます。
たとえばタ行は舌先を上の前歯の裏に当てて弾く音、サ行は上下の前歯のすき間から細い息を通して摩擦音を作る音です。歯の位置が正常であれば舌や唇はスムーズに動きますが、歯並びにずれがあると舌を当てる位置が定まらなかったり、想定外のすき間から空気が漏れたりして音がぼやけます。
歯は発音の土台で、土台がずれていると舌の使い方を意識しても発音が安定しにくくなります。
歯並び以外の要因:舌の筋力不足と低位舌
歯並びが整っていても滑舌が悪くなることはあります。代表的な要因が、舌の筋力不足と低位舌(ていいぜつ)です。低位舌とは、口を閉じたときに舌先が上の歯の付け根に当たり舌全体が上あごに触れているのが本来の位置であるのに対して、舌が下がって下の歯の裏側に触れている状態を指します。
舌の力が弱いと、上あごに押し当てて発音するタ行・ナ行・ラ行が不明瞭になりやすく、低位舌は口呼吸や歯並びの悪化にも結びつきます。
歯並びと舌の使い方の両方が滑舌に関わっているケースも珍しくないため、最初の検査で「気になる音」を具体的に伝えると、原因の切り分けがスムーズになります。
滑舌に影響しやすい歯並びと、苦手になりやすい音
歯並びの種類によって、影響を受けやすい音は異なります。下の表は、ご自身の歯並びと気になる音を照らし合わせるための地図として使ってください。
| 歯並びの種類 | 特徴 | 影響を受けやすい音 | 発音が崩れる理由 |
|---|---|---|---|
| 開咬(かいこう) | 奥歯を噛んでも前歯が噛み合わない | サ行・タ行 | 前歯のすき間から空気が漏れ、摩擦音や破裂音が作りにくい |
| すきっ歯(空隙歯列) | 歯と歯の間にすき間がある | サ行・ザ行 | すき間から息が抜けて、音がこもる |
| 上顎前突(出っ歯) | 上の前歯が前方に出ている | サ行・ラ行 | 唇が閉じにくく、舌先の定位置がずれる |
| 下顎前突(受け口) | 下の前歯や下あごが前に出ている | サ行・タ行 | 上の前歯に舌が届きにくく、空気の流れが変わる |
| 叢生(そうせい) | 歯が重なり合って並んでいる | 個人差が大きい | 舌や唇の動きが歯列の凹凸に阻まれる |
特に開咬と下顎前突(反対咬合)は、「正しい発音ができないことが多い」「聞き取りにくい話し方になることが多い」代表的な不正咬合です。
一方で、歯並びの見た目と滑舌の悩みの強さは比例しません。「歯並びは軽度だが特定の音だけ発音しにくい」という方もいれば、その逆もあります。
検査の段階で、ご自身が苦手だと感じている音を具体的に共有していただけると、歯の位置・舌の動き・唇の働きのどこに原因があるかを切り分けて確認できます。
矯正治療で滑舌はどこまで改善が期待できるか
矯正で改善が見込めるのは、歯の位置のずれが原因で発音が崩れているケースです。一方で、舌の癖や筋力が主な原因の場合は、矯正だけでは滑舌は変わりません。ご自身がどちらに当たるかを見極めることが、過度な期待や失望を避ける第一歩になります。
矯正で改善が見込めるケースと、別のアプローチが必要なケース
歯の位置が原因で滑舌が悪くなっているケースは、矯正で前歯のすき間を閉じたり、上下の噛み合わせを整えることで、息漏れや舌の当てる位置が安定し、発音の明瞭さが戻る方向に向かいます。開咬・すきっ歯・反対咬合のように、空気の通り道や舌の届く位置に直接影響する不正咬合は、矯正の効果が出やすい代表例です。
一方、低位舌や舌癖が主因の場合は、歯を動かすだけでは舌の使い方そのものが変わりません。MFTのような舌、唇、頬などの口腔周囲筋トレーニングを並行することで、舌が本来の位置に戻り、発音の安定につながります。
骨格レベルで上下のあごのずれが大きい場合は、ワイヤー矯正だけでは噛み合わせ自体が整わず、外科矯正が選択肢に入ることもあります。
ご自身の滑舌の悩みが歯の位置・舌の癖・骨格のどれに由来するかで、必要な治療が変わります。
矯正後に発音が変わる仕組み
矯正で歯並びが整うと、まず空気の通り道と舌の当たる場所が一定になります。サ行は上下の前歯のすき間から細い息を流して作る音なので、開咬で常にすき間がある状態と、噛み合わせが整って息の流れがコントロールできる状態とでは、出る音の輪郭が変わります。タ行・ナ行・ラ行のように舌先を上の前歯の裏に当てる音も、当てる位置が一定になることで、安定して同じ音を出しやすくなります。
ただし、長年その歯並びで話してきた方は、歯が動いた後も以前の舌の使い方の癖が残ることがあります。新しい歯の位置に舌が慣れるまでに少し時間がかかる、という感覚を持つ方も少なくないため、変化はゆるやかに見ていく前提で進めると無理がありません。
矯正治療中に滑舌が一時的に悪くなる理由と装置別の影響
矯正を始めると、治療前より話しにくくなる時期があります。
なぜ装置をつけると話しにくくなるのか
理由はシンプルで、舌が普段当てている場所に装置があるからです。前歯の裏や歯と歯のすき間は、サ行・タ行・ナ行・ラ行など多くの音を作るときに舌が触れる地点です。そこに金属やセラミックの突起、樹脂のシートが入ると、舌は以前の動きで音を作れず、迂回したり当てる強さを変えたりする必要が出てきます。
装置に慣れるまでの違和感は治療の異常ではなく、舌が新しい環境に適応している過程です。多くの方は数日から数週間で気にならなくなりますが、感じ方には個人差があります。
矯正方法によって影響の出方が違う
ワイヤー矯正・マウスピース矯正・舌側矯正で、滑舌への影響の出方は変わります。ご自身がどの方法を検討しているかで、想定すべき期間や慣れ方の傾向を確認しておくと安心です。
| 矯正方法 | 滑舌への影響の傾向 | 影響を受けやすい音 | 慣れるまでの目安 |
|---|---|---|---|
| ワイヤー矯正 | 比較的小さい | マ行・パ行 | 数日〜2週間程度 |
| 舌側矯正(裏側矯正) | 大きい | サ行・タ行・ラ行 | 数週間〜1ヶ月程度 |
| マウスピース矯正 | 比較的小さい | サ行・タ行 | 1〜4週間程度 |
個人差はありますが、裏側矯正は滑舌への影響が最も大きい装置です。これは舌が直接触れる歯の裏側にブラケットとワイヤーが配置されるため、舌の可動域が制限されることが理由です。一方、マウスピース矯正は装置が薄く表面がなめらかなため、比較的滑舌への影響が少ない傾向があります。
いずれの装置も、装着してから1週間〜1ヶ月程度で口の中が新しい環境に適応し、発音のしにくさは改善されていくのが一般的です。
慣れるまでの間にできること
慣れの早さに個人差はありますが、最初の数日に意識して話す機会を作ると、舌が新しい環境を覚えるスピードが上がります。具体的には、声に出して本を読む・ニュースを音読する・ゆっくりめに話すなど、意図的に発音する時間を1日10〜15分ほど設ける方法が有効です。
慣れる過程で困りやすいのは「重要な会議や面接が直後に控えている」場面です。装置装着の直後は最も違和感が強い時期と重なります。装着のタイミングはご事情に合わせて相談しながら決められますので、気になる予定があれば初診や装着前の調整時にお話しください。
矯正中の滑舌の不安にどう向き合うか:治療期間を通じた見通しの立て方
矯正は数年単位の治療です。その間、滑舌は一直線に良くなるわけではなく、少しずつ変化していきます。
滑舌の変化には「波」がある
矯正治療中の滑舌は、一度悪くなってそのまま続くのではなく、治療の段階に応じて変化していきます。
装置を初めて装着した直後が最も話しにくく感じる時期です。その後、1〜4週間程度で口の中が装置に順応し、日常会話には支障がなくなるのが一般的な経過です。
ただし、ワイヤー矯正の調整日のあとや、マウスピース矯正で新しいマウスピースに交換した直後は、一時的に違和感が戻ることがあります。これは歯が動くことで舌の当たる感覚がわずかに変化するためで、多くの場合は数日で再び慣れます。
仕事や日常生活への影響を最小限にするために
仕事で人前で話す機会が多い方や、声を使うお仕事の方は、最初の数週間と調整直後の数日に予定が集中しないよう調整しておくと負担が軽くなります。職場の方や友人に「矯正中で少し話しにくい時期がある」と一言伝えておくと、滑舌の小さなズレを必要以上に気にしなくて済みます。
矯正は治療期間が長い分、生活との折り合いも長く付き合うテーマになります。
まとめ
滑舌の悩みで矯正を考えるとき、判断の出発点は「ご自身の発音の崩れが、歯の位置・舌の癖・骨格のどれに由来しているか」を見極めることです。歯の位置に由来する崩れは矯正で改善が期待でき、舌の癖や筋力が原因ならMFTのような並行ケア、骨格レベルのずれが大きければ外科矯正という選択肢も視野に入ります。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、大学病院で約30年にわたり顎変形症や先天性疾患による歯並びの治療に携わってきた経験を、地域の皆様一人ひとりのご相談に活かしています。滑舌の悩みが歯並びによるものか、それ以外の要因が関わっているかを切り分けるところから、ご一緒に考えていきます。相談料は無料ですので、気になる音や生活上の困りごとがあれば、お気軽にお話しください。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木 善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。
矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年 徳島大学歯学部卒業
- 1997年 徳島大学大学院歯学研究科修了
- 1997年 徳島大学歯学部矯正学講座助手
- 2004年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助手
- 2007年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助教
- 2022年 矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会・認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【矯正治療(自由診療)に関する重要事項】
セラミックブラケット・ホワイトワイヤーを用いた矯正治療は公的医療保険が適用されない自由診療です(顎変形症と診断された外科矯正は保険適用)。
- 治療内容:セラミックブラケットとワイヤーを歯の表側に装着し、力を加えながら歯並びと噛み合わせを整える治療
- 治療期間・回数:装置装着から保定終了までおおむね2〜3年程度。月1回程度の調整通院が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費 500,000円(税込・施術管理料・装置代・保定装置料を含む)/毎月の調整料 6,000円(税込)
- リスク・副作用:装置装着直後の痛み・違和感、一時的な滑舌の低下、口内炎、虫歯・歯周病リスクの上昇、歯根吸収、後戻りなど
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住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
アクセス地下鉄東西線「西11丁目」・「西18丁目」駅から徒歩10分
JR函館線「桑園」駅から徒歩15分 -
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