矯正中の歯ぎしりは治療に影響する?原因と後戻りリスク・対処法
歯ぎしりの自覚がある方が矯正治療を考えるとき、最初に気になるのは「歯ぎしりがあっても矯正できるのか」という点でしょう。結論を先にお伝えすると、歯ぎしりがあるから矯正治療を受けられないということはありません。ただし、強い噛みしめの力は歯を動かす矯正の力と方向が違うため、診断・装置の選び方・保定(矯正後の安定化)の3つの段階で歯ぎしりを織り込んだ計画を立てる必要があります。
歯ぎしり(ブラキシズム)が矯正治療に与える影響
矯正治療は、歯に対して持続的で弱い力をかけて少しずつ歯を動かす治療です。一方の歯ぎしり(ブラキシズム)は、瞬間的に体重をかけるほどの強い力を歯と歯の間で発生させます。性質の違うこの2つの力が同じ口の中で起こると、装置・歯の動き・歯周組織のそれぞれに無視できない影響が出ます。
矯正装置へのダメージ
ワイヤー矯正の場合、上下の歯が強く擦れ合うと、歯の表面に取り付けたブラケットが外れる、ワイヤーが曲がる、ゴムが切れるといったトラブルが起こりやすくなります。装置が壊れるたびに修理のための来院が必要になり、装置の破損が重なると治療期間が後ろにずれていく点は把握しておく必要があります。
マウスピース矯正(インビザラインなど)の場合は、就寝中の歯ぎしりでアライナーが摩耗したり割れたりすることがあります。変形したアライナーをそのまま装着し続けると、計画通りの方向に歯が動かなくなるため、気づいた段階で担当医に相談してください。
歯の移動計画への影響
矯正治療は、歯に対して一方向の弱い力を継続的にかけることで歯を動かす仕組みです。歯ぎしりでは上下の歯が強い力で擦り合わされるため、矯正の力とは別方向の負荷が歯にかかります。
この「横方向の過剰な力」が加わると、歯根膜(歯の根を取り巻く繊維組織)に余計なダメージが生じ、歯の移動速度が遅くなったり、予定していた位置まで歯が動かなかったりする場合があります。特に奥歯の噛み合わせを調整する局面では、歯ぎしりの影響が顕著に出やすいでしょう。
なお、無意識の歯ぎしりで歯にかかる力は通常の咀嚼時よりもはるかに大きく、体重の数倍に達するとの報告もあります。矯正で計画的に加える力は数十〜数百グラム程度であるため、桁違いの力がかかる歯ぎしりが治療計画に影響する理由はここにあるのです。
歯や歯周組織への負担
歯ぎしりが続くと、歯のすり減り(咬耗)、歯の根の周りの組織への負担、知覚過敏といった症状が出ることがあります。矯正治療中は歯を支える骨が一時的にやわらかい状態になるため、通常時よりも歯ぎしりの影響を受けやすい点に注意が必要です。
特に問題になりやすいのは、歯ぎしりによる外傷的な力と矯正による移動の力が同じ歯に集中するケースです。歯のぐらつき(動揺)が強く出ているときや、歯ぐきの腫れが続いているときは、いったん矯正の力を弱めて歯周組織を休ませる判断をすることもあります。
歯ぎしりがあっても矯正治療はできるのか
歯ぎしりがあるからといって矯正治療を断られることは、まずありません。ブラキシズム自体は健康な方にも見られる癖の1つで、矯正歯科では「歯ぎしりがある前提で計画を立てる」のが日常的な対応です。ここでは、診断・計画・例外ケースの3つの観点から、治療を受ける前に押さえておきたい流れを整理します。
治療前の診断で歯ぎしりの程度を確認する
矯正治療を始める前のカウンセリングでは、歯の摩耗、顎関節の音や痛み、朝起きたときの顎のだるさなどを確認します。歯の表面が平らにすり減っている、奥歯にひびのような線が見える、頬の内側に歯の跡が残っているといった所見は、日中・夜間に強い噛みしめが起きていることを示すサインです。
ご自身でできる確認方法もあります。
- 家族に「寝ているとき音が出ているか」を聞いてみる
- 朝起きたとき顎の筋肉が疲れていないかを観察する
- 日中ふと気づいたとき上下の歯が触れていないかをチェックする
これらをカウンセリングで伝えていただけると、治療計画に歯ぎしりへの配慮を組み込みやすくなります。軽度の癖でも見落とさず計画に反映できれば、治療中の装置トラブルや痛みの強さを抑える助けになります。
装置選択や治療計画で考慮される点
歯ぎしりの程度が軽度から中等度であれば、マウスピース矯正・ワイヤー矯正のいずれも選択肢に入ります。ただし、重度のブラキシズムがある場合はアライナーの破損リスクが高いことから、ワイヤー矯正を優先的に提案されるケースも少なくありません。
マウスピース矯正を選ぶ場合でも、アライナーの素材を厚めのものにしたり、交換周期を調整したりする方法で対応できる場合もあります。歯ぎしりの自覚がある方は、装置を選ぶ前に担当医へ伝えることが、トラブルの予防につながる第一歩です。
歯ぎしりを理由に「できない」と言われるケース
ごくまれに、重度のブラキシズムにより歯周組織の状態が著しく悪化していると、先に歯ぎしりの治療(ナイトガードの使用やボトックス治療など)を優先し、歯周組織の改善を待ってから矯正に入る流れもあります。
これは「矯正ができない」というよりも「順序を整える」という判断です。歯ぐきや骨の状態が安定すれば矯正治療に進めるため、歯ぎしりが重度でも矯正自体を諦める必要はありません。
矯正中に歯ぎしりが起こる原因
「もともと歯ぎしりは気にしていなかったのに、矯正を始めてから増えた気がする」という相談はよくあります。矯正治療中は口の中の環境が大きく変化するため、一時的に歯ぎしりが目立つ時期があります。原因を3つに分けて見ていきます。
噛み合わせの変化によるもの
矯正治療では、月単位で歯の位置が動いていきます。動いている途中の歯は、上下の歯の当たり方が以前と違うため、脳が「いつもの噛み合わせの位置」を探そうとして無意識に歯をすり合わせる動きが出ることがあります。これは噛み合わせが安定するまでの一時的な反応で、計画通りに歯が動いて噛み合わせが整うと自然に落ち着くことが多いです。
ただし、歯が動いている過程で特定の歯だけが強く当たる「早期接触」という状態になっていると、歯ぎしりが続いてしまいます。担当医は調整のたびに咬合(こうごう:歯の接触)を確認しますが、顎関節に違和感や痛みが出た場合は、自然に治まるのを待つのではなく、早めに担当医に伝えてください。
ストレスや生活習慣
歯ぎしりの主要な引き金の一つがストレスです。矯正治療そのものへの不安や、装置による違和感がストレス源となり、睡眠中のブラキシズムを誘発することがあります。
カフェインやアルコールの過剰摂取も見過ごせない要因で、睡眠の質を低下させ、睡眠時のブラキシズムを助長するとの報告があります。矯正期間中は治療の進行を安定させるためにも、日々の睡眠の質に意識を向けるとよいでしょう。
仕事の繁忙期や生活環境の変化など、一時的にストレスが増える時期には歯ぎしりが強くなりやすいものです。アライナーの消耗が普段より早い、朝の顎の疲労感がいつもより強いと感じたときは、歯ぎしりが増えているサインかもしれません。
TCH(歯列接触癖)の存在
通常、起きているときの上下の歯は、会話や食事の瞬間以外はわずかに離れているのが正常な状態です。ところが、日中ずっと上下の歯を軽く接触させ続けている方が一定数います。これがTCH(Tooth Contacting Habit =歯列接触癖)と呼ばれる癖で、本人に強く噛みしめている自覚がないことがほとんどです。
TCHがあると、気づかないうちに咀嚼筋(顎を動かす筋肉)が疲労を蓄積し、夜間の歯ぎしりにつながることがあります。矯正治療中に「装置がよく当たる」「頬の内側を噛みやすい」と感じる方は、日中のTCHが背景にある可能性があるため、後述するTCH是正トレーニングを生活に取り入れることが対処の出発点になります。
歯ぎしりが矯正の後戻りを引き起こす理由
矯正治療は装置を外して終わりではありません。動かしたばかりの歯は元の位置に戻ろうとする性質があり、保定期間と呼ばれる「歯並びを安定させる時期」が必ず必要です。この保定期間こそ、歯ぎしりの影響が最も出やすい場面です。
保定期間中の歯に歯ぎしりの力がかかるとどうなるか
矯正で歯を動かしたあと、歯の周囲の骨や歯ぐきの線維が新しい位置に組み替わるまで、一般的に数ヶ月から数年かかります。この期間中の歯は、見た目はきれいに並んでいても、組織レベルではまだ不安定な状態です。
そこに歯ぎしりの強い力が繰り返しかかると、組み替わりが進んでいない線維が引っ張られ、歯が少しずつ元の位置に戻ろうとする動きを後押ししてしまいます。保定期間中の歯ぎしり対策は、矯正治療の成果を維持する上での要です。
リテーナーと歯ぎしりの関係
保定装置(リテーナー)には、固定式と取り外し式の2種類があります。
歯ぎしりがある方の場合、取り外し式リテーナーは就寝時に歯ぎしりの力を直接受けるため、摩耗や破損が早く進むことがあります。
固定式リテーナーは歯の裏に細いワイヤーを接着するタイプで、就寝時の歯ぎしりからは比較的影響を受けにくいですが、歯ぎしりの力で接着が外れることもあります。
リテーナーが摩耗・破損していることに気づかないまま装着を続けると、歯が固定されないまま夜間の力にさらされるため、後戻りが進みやすくなります。日々の装着前に「変形していないか」「ヒビが入っていないか」を確認する習慣をつけてください。
後戻りと歯ぎしりの「悪循環」
歯ぎしりによって歯並びが崩れ始めると、噛み合わせのバランスが再び不安定になります。噛み合わせの不調和はブラキシズムの誘因にもなり得るため、「歯ぎしり→ 後戻り→ 噛み合わせの悪化→ 歯ぎしりの悪化」という悪循環に陥る可能性も否定できません。
後戻りが目に見えるレベルになる前にナイトガードや日中のTCH是正で力の入力を減らし、保定期間中も担当医のチェックを継続することが、長く安定した歯並びを保つ鍵になります。
矯正中・矯正後にできる歯ぎしりへの対処法
歯ぎしりの対処法は、装置で力を逃がす方法と、癖そのものを修正する方法の2つに大きく分かれます。どれか1つで完結するものではなく、組み合わせて使うのが一般的です。
ナイトガード(スプリント)の使用
ナイトガード(スプリント)は、就寝時に上下のどちらかの歯列に装着するマウスピース型の装置です。上下の歯が直接擦れ合わないようにクッションの役割を果たし、歯ぎしりの力を装置で受け止めることで、歯や顎関節への負担を軽くします。
矯正治療後の保定期間であれば、リテーナーの種類を歯ぎしり対策も兼ねたハードタイプにするなど、保定と歯ぎしり対策を同時にカバーできる選択肢もあります。なお、歯ぎしり用のナイトガードは保険適用で作製できる場合が多く、費用の目安は3割負担で4,000〜5,000円程度です。
TCH是正トレーニング
TCH是正の基本は「歯を離す」ことを意識づけることです。具体的には、目につく場所(パソコンのモニター・冷蔵庫・洗面所の鏡など)に付箋やシールを貼り、見るたびに「歯が当たっていないか」をチェックする方法がよく使われます。歯が当たっていたら、息を吐いて顎の力を抜き、上下の歯をわずかに離した状態を作ります。
これを2〜3週間続けると、無意識に歯を離す癖がついてくる方が多いです。ナイトガードと並行してTCH是正を進めることが対処の本筋になります。費用がかからず生活に取り入れやすい対処法なので、矯正治療を始めるタイミングで一緒に始めるのがおすすめです。
ストレスマネジメント
歯ぎしりとストレスは関係が深いため、生活面の工夫も対処の一部になります。就寝前のスマートフォン使用を減らす、入浴で身体をしっかり温める、軽いストレッチで肩や首の緊張をほぐすといった方法は、睡眠の質を上げて夜間の歯ぎしりを減らす助けになります。
カフェインやアルコールは睡眠の質を下げるため、夜間の歯ぎしりが強い時期は摂取量や時間帯を見直すと変化を感じる方もいます。ストレスマネジメントは即効性があるわけではありませんが、ナイトガードやTCH是正と組み合わせると効果が安定しやすくなります。
咬筋ボトックス注射
咬筋(こうきん:頬の奥にある顎を動かす筋肉)にボツリヌストキシン製剤を注射し、筋肉の緊張をやわらげる治療法もあります。歯ぎしりの強い力を生み出している咬筋の働きを一時的に抑えることで、歯への負担を軽減する目的で使われます。効果は個人差がありますが、3〜6ヶ月程度で薄れていくため、継続するには定期的な注射が必要です。
この治療は一部の歯科医院や美容クリニックで行われています。ナイトガードやTCH是正で十分に対処できる方が多いため、まずは歯科で標準的な対処を試して、それでも歯ぎしりが強い場合に検討する位置づけと考えてください。
歯ぎしりと矯正についてよくある疑問
矯正治療で歯ぎしりは治るのか
噛み合わせの不調和が歯ぎしりの一因になっている場合は、矯正治療で噛み合わせが整うことで症状が軽減される可能性があります。ただし、歯ぎしりの原因はストレスや睡眠の質など多因子にわたるため、矯正治療だけでブラキシズムが完治するとは限りません。
噛み合わせの改善はあくまで歯ぎしりの「リスク因子を一つ減らす」という位置づけです。矯正後も歯ぎしりが続く場合は、ナイトガードやストレスケアなど別の対策を並行して行う必要があります。
マウスピース矯正と歯ぎしりは相性が悪いのか
アライナーの摩耗・破損リスクはありますが、絶対に選べないわけではありません。歯ぎしりの程度を診断したうえで交換頻度を上げる、ナイトガードを併用するといった工夫で対応している矯正歯科もあるため、ご自身に合うかを判断したい場合はマウスピース矯正対応の矯正歯科で相談してみてください。
子どもの矯正中に歯ぎしりがある場合は
乳歯から永久歯に生え変わる時期の子どもは、噛み合わせが定まる過程で一時的に歯ぎしりが見られることがあります。多くは成長とともに自然に減っていくため、過剰に心配する必要はありません。ただし、歯のすり減りが目立つ、朝起きたときに顎が痛いと訴えるといった症状があるときは、矯正の担当医に相談してください。
子ども用のナイトガードや、機能的矯正装置による噛み合わせの誘導が選択肢になることがあります。
まとめ
歯ぎしりがあっても矯正治療は受けられます。大事なのは、治療を始める前の段階で歯ぎしりの程度を共有し、装置選択・力のかけ方・保定方法に織り込んでもらうことです。
矯正中に歯ぎしりが強まった場合は我慢せずに担当医に伝え、必要ならナイトガードの併用やTCH是正を取り入れていきます。矯正後の保定期間も油断せず、リテーナーの状態を毎日確認する習慣が、後戻りを防ぐ最大の対策になります。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、大学病院で約30年にわたり矯正治療と顎の専門領域に携わってきた経験を活かし、歯ぎしりや顎関節の症状を含めて長期で寄り添う治療を心がけています。歯ぎしりが気になる方も、まずは無料の相談で現在のお口の状態をご相談ください。診断料が発生する前の段階で、おおよその治療方針をお伝えします。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木 善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。
矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年 徳島大学歯学部卒業
- 1997年 徳島大学大学院歯学研究科修了
- 1997年 徳島大学歯学部矯正学講座助手
- 2004年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助手
- 2007年 札幌医科大学医学部口腔外科学講座助教
- 2022年 矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会・認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
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