アンカースクリューを使う矯正とは?仕組み・痛み・費用の目安
アンカースクリューは、直径1〜2mm・長さ6〜10mm程度のチタン製の小さなネジを顎の骨に一時的に埋入し、歯を動かす際の固定源として使う矯正治療の補助装置です。「骨にネジを埋め込む」と聞くと身構える方もおられますが、実際には局所麻酔下で5〜10分程度で済む処置で、矯正用に取り外しを前提に設計されています。導入することで、従来のワイヤー矯正だけでは難しかった歯の移動が実現でき、外科手術を避けられるケースもあります。
アンカースクリューが矯正治療で使われる理由
矯正治療では歯にワイヤーやゴムで力をかけて歯を動かしますが、力をかけた側だけでなく反対側の歯も動いてしまう「作用・反作用」の問題が常に生じます。この問題をどう制御するかが、治療の精度に直結します。
従来の矯正治療で起きる「綱引き」の限界
ワイヤー矯正では、前歯を後ろに引っ張ると、固定源にしている奥歯が前に引っ張られて動いてしまうことがあります。これは作用・反作用の法則が口の中でも働くためです。奥歯が前に動くと噛み合わせが崩れたり、予定どおりに歯が並ばなかったりする原因になります。
従来はヘッドギアなど口の外に装置を付けて固定源を補強する方法がありましたが、装着の手間や見た目の負担が課題でした。アンカースクリューは、この「歯同士の綱引き」を解消するために顎の骨そのものを固定源にする方法です。骨は歯と違って矯正力では動かないため、動かしたい歯だけを狙った方向に移動させることが可能になります。
アンカースクリューでなければ難しい歯の動き
アンカースクリューが特に力を発揮するのは、従来の方法では実現が難しかった歯の移動パターンです。
代表的な例は、歯を骨の中に押し込む方向への移動(医学的には「圧下」と呼びます)です。笑ったときに歯茎が大きく見えるガミースマイルの改善では、前歯を骨の方向に押し上げる動きが必要になりますが、この動きはワイヤーの力だけでは実現が難しい動きの代表です。奥歯全体を後方へ動かす「遠心移動」も、歯を固定源にすると力が相殺されてしまうため、骨を直接の固定源にできるアンカースクリューが有効に働きます。
前歯の突出が大きい出っ歯(上顎前突)の症例や、上下の前歯が噛み合わず隙間ができる開咬の症例でも、アンカースクリューを併用することで外科手術を避けて矯正治療だけで対応できる可能性が広がります。
アンカースクリューの埋入から撤去までの流れ
処置にかかる時間や期間をあらかじめ把握しておくと、治療全体のスケジュールをイメージしやすくなります。
埋入の手順と所要時間
アンカースクリューの埋入は、歯科用の局所麻酔を行ったうえで実施します。骨には痛覚がないため、麻酔が効いた状態であれば埋入中に強い痛みを感じることはほとんどありません。
手順としては、まずレントゲンやCTで埋入予定部位の骨の厚みや歯根の位置を確認し、歯根に接触しない位置を特定します。その後、ドライバーでスクリューを骨にねじ込む形で埋入します。所要時間は1本あたり5〜10分程度と、処置自体は短時間で終わります。
埋入する位置は症例によって異なる
アンカースクリューを打つ位置は、どの歯をどの方向に動かしたいかによって決まります。
上顎の場合は口の天井部分(口蓋)に埋入するケースが多く、ここは歯根との接触リスクが少ないことが理由です。前歯を後方に大きく下げたい場合は口蓋の中央付近、奥歯の位置を調整したい場合は歯根と歯根の間に埋入することもあります。下顎では、奥歯の歯根の間や、最も奥の歯のさらに後方に埋入するのが一般的です。
いずれの位置でも、埋入前にレントゲンやCTで骨の厚みと歯根の位置を精密に確認したうえで決定します。
装着期間と撤去の方法
アンカースクリューは矯正治療が終わるまで付け続けるわけではありません。必要な歯の移動が終わった時点で撤去します。装着期間は一般的に6ヶ月〜1年程度で、症例の難易度や移動量によって前後します。
撤去はドライバーでスクリューを回して取り外すだけで、1〜2分程度で完了します。骨と完全に癒合させる歯科インプラントとは異なり、矯正用アンカースクリューは取り外しを前提として設計されているため、撤去後の小さな穴は通常1週間程度で自然にふさがります。
アンカースクリュー矯正の痛みはどの程度か
「骨にネジを打つ」と聞くと強い痛みを想像される方も多いですが、実際の痛みは処置の段階によって性質が異なります。痛みの強い場面と、ほとんど痛みを感じない場面を分けて理解しておくと、過度な不安なく治療に臨めます。
埋入時は麻酔が効いているため痛みはほぼない
埋入時には歯科治療で一般的に使われる局所麻酔を行います。麻酔の注射自体には多少のチクッとした感覚がありますが、麻酔が効いた後の埋入操作では骨そのものに痛覚がないため、痛みをほとんど感じません。
抜歯やインプラント手術のように歯茎を大きく切開する必要がなく、スクリューを直接骨にねじ込む処置のため出血もごくわずかです。
埋入後2〜3日は鈍い痛みが出ることがある
麻酔が切れた後、埋入部位の周囲に鈍い痛みや違和感を覚えることがあります。この痛みは一般的に2〜3日で収まり、市販の鎮痛剤で対処できる程度です。ワイヤー矯正で調整後に感じる歯の鈍い痛みと似た感覚で、日常生活に大きな支障は出ません。
注意が必要なのは、痛みが1週間以上続く場合や、埋入部位の腫れが日に日にひどくなる場合です。これらの症状はスクリュー周囲の感染を示唆している可能性があるため、早めに担当医にご連絡ください。
なお、撤去時の痛みは埋入時よりもさらに軽く、麻酔なしで行えるケースもあります。撤去後に痛みが長引くことはほとんどありません。
アンカースクリューのリスクと注意点
アンカースクリューは安全性の高い処置ですが、リスクがゼロではありません。事前にリスクの内容を理解しておくことで、適切な対処がしやすくなります。
脱落するリスクと再埋入の流れ
アンカースクリューは歯科インプラントのように骨と完全に結合させるものではないため、使用中に緩んで脱落することがあります。脱落した場合は、同じ部位または近くの別の部位に再度埋入する処置を行います。再埋入も初回と同様に局所麻酔下で短時間で完了し、身体への負担が大きく増えるわけではありません。
脱落のリスクを下げるためには、埋入部位の周囲を清潔に保つことが重要です。歯ブラシが当たりにくい位置にスクリューがある場合は、毛先が小さい歯ブラシ(タフトブラシ)を使って、周囲の汚れを丁寧に取り除いていただくと安心です。
感染を防ぐためのセルフケア
アンカースクリューの周囲に汚れがたまると、細菌が繁殖して歯茎が腫れたり炎症を起こしたりすることがあります。日常的なケアとしては、通常の歯磨きに加えてスクリュー周囲をタフトブラシや洗口液で清潔に保つことが有効です。
また、硬い食べ物をスクリュー付近で噛むと、スクリューに過度な力がかかり、脱落や炎症の原因になることがあります。治療期間中は、スクリューのある側で硬いものを噛むことを避けると安心です。
歯根を傷つけるリスクへの対策
埋入時にスクリューが歯根に接触してしまうリスクもあります。これを防ぐため、埋入前にレントゲンやCTで歯根の位置を三次元的に確認し、安全なスペースがあることを確かめたうえで埋入位置を決定します。
万が一歯根に接触した場合でも、スクリューを除去すれば歯根は自然に修復されるのが一般的です。ただし、歯根と歯根の間隔が狭い部位では慎重な位置決めが求められるため、術前の画像診断と矯正歯科医師による位置決めの精度が、安全性を左右します。
アンカースクリュー矯正の費用の目安
アンカースクリューは矯正治療全体の一部として使われるため、費用は「スクリューそのものの費用」と「矯正治療全体の費用」に分けて考える必要があります。
スクリュー1本あたりの費用
アンカースクリューの費用は、1本あたり2〜3万円程度が一般的な目安です。使用する本数は症例によって異なり、2〜4本程度を使うケースが多く見られます。
スクリュー代の扱いは医院によって異なるため、カウンセリングで次の3点をあわせて確認しておくと、後から「想定より高くなった」という戸惑いを防げます。
- スクリュー代が矯正治療費に含まれるか、別途請求か
- 何本使う見通しか
- 治療途中で追加が必要になった場合の費用
矯正治療全体の費用に与える影響
アンカースクリューを併用した矯正治療の総額は、一般的に80〜140万円程度(税込)が目安です。この金額はアンカースクリュー単体ではなく、選択する矯正装置の種類、症例の難易度、治療期間によって大きく変動します。
アンカースクリューの使用によって治療期間が短縮できる症例では、通院回数の減少によって調整料の総額が下がるケースもあります。費用の絶対額だけで判断するのではなく、「使う場合」と「使わない場合」で治療期間や仕上がりがどう変わるかを並べて比較すると、ご自身にとって納得度の高い判断につながります。
保険適用と医療費控除
矯正治療は審美目的の場合、健康保険の適用外で、アンカースクリューも同様に自費診療です。ただし、顎変形症や先天性の咬合異常など、厚生労働省が定める特定の疾患に該当する場合は外科矯正として保険適用の対象になることがあります。
また、審美目的であっても噛み合わせの改善を目的とした矯正治療であれば、医療費控除の対象となる可能性があります。確定申告では診断書の提出は基本的に不要ですが、税務署から治療目的の確認を求められた場合に備えて、医師に診断書または治療内容を示す書類を発行してもらえるか確認しておくと安心です。
まとめ
アンカースクリューは、顎の骨を一時的な固定源とすることで、従来の矯正治療では難しかった歯の移動を実現する補助装置です。要点を整理します。
- 直径1〜2mmのチタン製ネジで、埋入は局所麻酔下で1本5〜10分程度
- 痛みは埋入後2〜3日の鈍い違和感が中心
- 費用は1本2〜3万円程度
- 脱落・感染のリスクはセルフケアと定期通院で管理できる
- 使用の要否は精密検査で判断する
気になることがあれば矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前へお気軽にご相談ください。大学病院で約30年にわたり矯正・口腔外科治療に携わってきた院長が、現在の歯並びを確認したうえで、アンカースクリューの要否を含めた治療プランをご提案します。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年:徳島大学歯学部 卒業
- 1997年:徳島大学大学院歯学研究科 修了
- 1997年:徳島大学歯学部 矯正学講座 助手
- 2004年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助手
- 2007年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助教
- 2022年:矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会 認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【アンカースクリュー矯正に関する重要事項】
アンカースクリュー矯正(審美目的の矯正治療)は公的医療保険が適用されない自由診療です。なお、顎変形症や先天性咬合異常など厚生労働省が定める疾患に該当し、外科矯正として行う場合は保険適用となるケースがあります。
- 治療内容:顎の骨にチタン製の小さなネジ(アンカースクリュー)を埋入し、歯を動かす際の固定源として利用したうえで、ワイヤー矯正等を併用して歯並び・噛み合わせを整える治療
- 治療期間・回数:アンカースクリューの装着期間は6ヶ月〜1年程度。矯正治療全体の期間は1年半〜2年半程度(個人差あり)
- 費用の目安:アンカースクリューは1本あたり2〜3万円程度。矯正治療全体は80〜140万円程度(税込)。詳しくはクリニックへお問い合わせください
- リスク・副作用:埋入後2〜3日の鈍い痛みや違和感、スクリューの脱落・緩み、埋入部位の感染・歯肉炎、歯根への接触リスク、稀に再埋入が必要となる場合があります
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