小児矯正中の歯磨き方法と虫歯予防とは?装置タイプ別のケアと道具選び
小児矯正が始まると、お子様の口の中は装置で複雑になり、これまで通りの歯磨きでは汚れが落としきれなくなります。この時期に虫歯ができてしまうと、矯正治療そのものを一度中断して虫歯治療を優先することになり、結果的に治療期間が延びてしまいます。
ここでは、ご自宅で取り組める具体的なケア方法と、保護者の方のサポート方法をお伝えします。
小児矯正中に虫歯リスクが上がる仕組み
矯正中は装置のせいで磨きにくくなるだけでなく、子供の歯そのものが大人より虫歯になりやすい性質を持っています。この2つが重なる時期として、小児矯正中は予防の意識を一段引き上げる必要があります。
装置が歯面を覆うことで起きる変化
固定式のブラケットやワイヤーが歯に取り付けられると、装置の周りに食べかすや歯垢が溜まりやすくなり、通常の歯ブラシでは届かない死角が一気に増えます。特にブラケットと歯肉の境目、ワイヤーと歯の表面のすき間は、毛先がまっすぐ入りにくい場所です。
取り外し式の装置でも、装置を入れている間は唾液が歯面に行き渡りにくくなります。唾液には食べかすを洗い流したり、酸を中和したりする働きがあるため、装置で覆われた部分はその恩恵を受けにくくなります。装置を外したあとに磨かずに再装着すると、汚れと装置の間で虫歯菌が増えやすい環境ができます。
子供の歯が大人より虫歯になりやすい理由
乳歯と生えたばかりの永久歯は、大人の歯と比べてエナメル質が薄く、酸への抵抗力も弱いという特徴があります。生えたての永久歯(萌出後の数年間)は表面がまだ成熟しきっておらず、この時期は一生のうちで最も虫歯になりやすい時期といわれています。
小児矯正は、ちょうどこの「生えたての永久歯」が口の中に並ぶ時期に行うことが多い治療です。装置による磨きにくさと、歯そのもののデリケートさが重なるからこそ、毎日のケアを丁寧に整えることが大切になります。
装置のタイプ別に見る歯磨きのポイント
小児矯正で使う装置は、大きく分けて「歯に固定するタイプ」と「自分で取り外すタイプ」の2種類があります。それぞれで磨くべき場所と難しさが違うため、お子様の装置に合わせて方法を選びます。
固定式装置(ブラケット・ワイヤー・バンドなど)
固定式の装置では、装置を取り囲むように1本ずつ磨くという発想に切り替えることが一番のポイントです。ブラケットの上側、下側、ワイヤーと歯肉の間、それぞれを意識して別々に磨きます。
| 磨く場所 | 当て方 |
|---|---|
| ブラケットの上側 | 歯ブラシを斜め下から当て、装置の上のすき間に毛先を入れる |
| ブラケットの下側 | 歯ブラシを斜め上から当て、装置と歯肉の間を磨く |
| ワイヤーと歯の間 | ワンタフトブラシや歯間ブラシで、横から毛先を差し込む |
| 装置のない歯面 | 通常の歯磨きと同じく、歯ブラシを直角に当てて小刻みに動かす |
歯ブラシだけでは死角が残るため、毛束が小さいワンタフトブラシを併用します。ワイヤーと歯肉の間にすき間が見える場合は、サイズに合った歯間ブラシを使い分ける場面も出てきます。
取り外し式装置(拡大床・プレオルソ・マウスピースなど)
取り外し式の装置は歯磨きのときに外せるため、歯そのものはいつも通り磨けるという安心感があります。ただし注意点が2つあります。
1つ目は、装置を外したあとに歯を磨かずに再装着しないことです。食後すぐに装着すると、食べかすや糖分を装置の中に閉じ込めることになります。
2つ目は装置自体の清掃です。装置にも食べかすや唾液の成分が付着するため、流水で洗い、専用のブラシで装置についた汚れを落とします。装置の素材によっては熱湯で変形することがあるので、洗うのは水か、ぬるま湯にとどめます。
装置を外している時間と、装着している時間。両方の場面でケアの手順を決めておくと、お子様も習慣化しやすくなります。
小児矯正中に揃えておきたい歯磨き道具
矯正中は、普段の歯ブラシ1本では汚れを落としきれない場面が出てきます。役割の違う道具を3〜4種類組み合わせるのが基本になります。
歯ブラシの選び方
矯正中はメインの歯ブラシに加えて、ワンタフトブラシをもう1本用意しておくと、装置の周りまで届く範囲が大きく広がります。
| 道具 | 用途 | 選ぶときのポイント |
|---|---|---|
| 矯正用歯ブラシ | 全体を磨くメイン | 毛先が山型、または装置にあたる中央部分の毛が短いもの |
| ワンタフトブラシ | ブラケット周り・奥歯・装置と歯肉の間 | 毛束が小さく、ヘッドが細いもの |
| 歯間ブラシ | ワイヤー下や装置のすき間 | すき間に合うサイズ。無理なく入る細さを選ぶ |
| デンタルフロス | 歯と歯の間(ワイヤー越しに使う場合は専用フロス) | 子供用のホルダー付きや、矯正用のスーパーフロス |
道具を増やすと一見大変そうに思えますが、メインの歯ブラシで全体を磨いたあと、ワンタフトブラシで装置周りだけ仕上げるだけでも、磨き残しの量はぐっと減ります。
フッ素入り歯磨き粉の濃度の目安
矯正中は虫歯予防の観点からフッ素入り歯磨き粉の使用が推奨されます。日本小児歯科学会など4学会の合同提言では、年齢ごとに使うフッ素濃度と量の目安が示されています。
| 年齢 | フッ素濃度 | 1回の使用量 |
|---|---|---|
| 歯が生えてから2歳まで | 900〜1000ppm | 米粒くらい(1〜2mm) |
| 3〜5歳 | 900〜1000ppm | グリーンピースくらい(約5mm) |
| 6歳〜成人 | 1400〜1500ppm | 歯ブラシ全体(1.5〜2cm程度) |
6歳を境に、推奨される濃度が約1.5倍に上がります。小児矯正を受けるお子様の多くは6歳以上であり、その場合は1400〜1500ppmの歯磨き粉を選びます。
学会の提言では「就寝前を含めて1日2回の歯磨き」が推奨されています。就寝中は唾液の分泌が減って虫歯になりやすい時間帯のため、寝る前のフッ素ケアが特に重要です。歯磨きのあとは口をゆすぐ水を少なめにする、もしくは1回だけにすると、フッ素が口の中に残りやすくなります。
磨き残しをなくすための実践的なコツ
矯正中の歯磨きで一番難しいのは、「磨いた気になっているけれど磨けていない」状態が続いてしまうことです。特に子供は手の動きがまだ安定せず、同じ場所ばかり磨いて装置の裏側が手つかず、ということが起こりやすくなります。
1.手鏡を使って「見ながら磨く」
口の中を直接見ながら磨くと、装置のどの部分に毛先が当たっているかが目で確認できます。お子様には洗面台の鏡だけでなく、手元で覗き込める手鏡を渡すと、奥歯やワイヤーの裏側まで意識が向きやすくなります。
最初の数日は保護者の方が一緒に鏡を覗き込みながら、「ここに毛先を入れる」と指でも示しながら教えると、お子様自身が「磨きづらい場所」を認識できるようになります。
2.染め出し液で汚れを「見える化」する
歯垢に色がつく染め出し液(プラークチェッカー)を週に1回程度使うと、どこに磨き残しが集中しているかが赤やピンクの色でひと目でわかります。
矯正中の染め出しは、「ブラケットの周り」「歯と歯の間」「歯肉の境目」に色が残りやすい傾向があります。色がついた部分を狙って磨き直すことで、自分の磨き方の癖に気づけます。お子様にとっては「色が消えるまで磨く」というゲーム感覚で取り組めるのも、習慣化に役立ちます。
3.歯磨きの順番を決めておく
磨く順番を毎回同じにすると、磨き忘れが防ぎやすくなります。たとえば「右上の奥から1本ずつ手前へ→左上の奥まで→下の歯も同じ流れ」のように、一筆書きのルートを決めておきます。
ルートの途中でワンタフトブラシに持ち替える場所、フロスを使う場所もあらかじめ決めておくと、道具を使い忘れることがなくなります。
お子様と一緒にルートを決め、最初のうちは声に出しながら磨くと習慣として定着しやすくなります。
保護者の仕上げ磨きはいつまで必要か
「もう自分で磨けているはず」と思える年齢になっても、矯正中はもうしばらく仕上げ磨きを続けたほうが安心です。装置がある分、子供の手だけでは届かない場所が増えているからです。
矯正中は学童期でもサポートが必要
一般的に仕上げ磨きは小学校中学年(9〜10歳)頃まで続ける方が多いといわれますが、永久歯への生え変わり期にあたる小学校卒業前後まで続けることを勧める歯科もあります。矯正中はこの目安よりも長めに、装置が外れるまで点検磨きを続けるという考え方がベストです。
お子様自身に磨いてもらったあと、保護者の方が「装置の周り」「奥歯」「歯と歯の間」だけを点検磨きとして仕上げる形でも構いません。
仕上げ磨きの体勢と声かけの工夫
仕上げ磨きはお子様が大きくなるほど嫌がられがちな場面ですが、姿勢と声かけの工夫で続けやすくなります。お子様にソファや床で仰向けになってもらい、保護者の方が頭の上から覗き込む体勢が、口の中が一番見やすい姿勢です。
声かけは「ちゃんと磨けてる?」と聞くより、「装置の上だけ仕上げするね」と区切って伝えるほうが受け入れられやすくなります。「歯磨きの最後の仕上げだけ」と役割を限定することで、お子様の自立心も保てます。
矯正中は通院のたびに歯科衛生士が口の中をチェックしますので、ご自宅でのケアで気になる点があれば、その場で遠慮なくご相談ください。
矯正治療を通じて親子で育てる口腔ケア習慣
小児矯正は数年単位の治療です。この期間にお子様と一緒に作り上げた歯磨きの習慣は、装置が外れたあとも残り続けます。「治療のため」だけでなく「これからの一生の口の健康のため」という視点で取り組むと、ご家族にとっても意味のある時間になります。
治療期間中に身につけた習慣が治療後も続く
矯正中に身につけた「鏡を見ながら磨く」「染め出しで確認する」「順番を決めて磨く」といった習慣は、装置が外れたあとも虫歯予防の基盤として働き続けます。ワンタフトブラシやフロスは矯正中だけの道具ではなく、矯正後も使い続ければ歯と歯の間の虫歯予防に役立ちます。
矯正治療を「歯並びを整える治療」だけで終わらせず、「自分で口の中を管理できるようになる経験」として捉えると、治療期間中の取り組みに納得感が生まれます。
定期的な通院で歯科衛生士のチェックを受ける
矯正治療中は定期的にクリニックに通院するため、その都度、歯科衛生士による口腔内のチェックやクリーニングを受けることができます。
自宅でのケアだけでは取りきれない歯石や、磨き残しが常習化している箇所のフィードバックを受けられるのは、矯正治療中の通院ならではの利点です。
通院時に「どこが磨けていなかったか」を具体的に教えてもらい、次の来院までに自宅ケアに反映するサイクルを繰り返すことで、お子様のブラッシング技術は着実に向上していきます。
小児矯正中の歯磨きで気をつけたいQ&A
矯正中にフロスは使えますか?
固定式装置でもフロスは使えますが、ワイヤーが邪魔をするため通常のフロスはそのまま入りません。ワイヤーをくぐらせて使う「矯正用フロス(スーパーフロス)」やフロスホルダーを使うと、歯と歯の間まで届きます。
学校の昼食後に歯磨きできないときは?
学校で歯磨きの時間が取れない場合は、食後に水やお茶でしっかり口をゆすぐだけでも、食べかすの大半は流せます。完全な歯磨きができなくても、「何もしないで放置する」状態を避ける工夫として有効です。
帰宅後にあらためてしっかり磨く時間を確保することで、日中に取り切れなかった汚れもリセットできます。お子様の生活リズムに合わせて無理のない方法を選んでください。
電動歯ブラシは矯正中に使えますか?
電動歯ブラシは矯正中でも使えますが、装置に強く押し当てるとブラケットが外れる原因になることがあります。使う場合は、矯正用の小さなヘッドのものを選び、装置に毛先を軽く当てる程度の力加減にとどめます。
電動歯ブラシだけで全部済ませるより、メインの歯磨きは手用ブラシで丁寧に行い、仕上げに電動を併用する使い方が安全です。
まとめ
小児矯正中の歯磨きは、装置の特性と子供の歯のデリケートさが重なる時期のケアです。固定式の装置なら装置を取り囲むように1本ずつ磨く意識、取り外し式なら「外した直後の歯磨き」と「装置の清掃」の2つを習慣にしてください。
矯正治療は数年にわたる長い取り組みです。装置が外れたあとも続く口腔ケアの習慣を、この期間に親子で一緒に作っていくつもりで取り組んでいただくと、治療の意味が大きく広がります。
当院では大学病院で約30年にわたり矯正治療と口腔ケアに携わってきた経験を、ご来院いただく一人ひとりの患者様の治療に活かしています。お子様の歯磨きで気になることがあれば、お気軽にご相談ください。矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 では小児矯正中のブラッシング指導も丁寧に行っています。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年:徳島大学歯学部 卒業
- 1997年:徳島大学大学院歯学研究科 修了
- 1997年:徳島大学歯学部 矯正学講座 助手
- 2004年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助手
- 2007年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助教
- 2022年:矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会 認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
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