【矯正と顎関節症の関係】矯正中に症状がでた際の対処法
顎関節症は「噛み合わせが悪いから起きる病気」と思われがちですが、実際にはストレス・食いしばり・生活習慣など複数の要素が重なって発症する多因子疾患です。そのため矯正治療は、顎関節症を確実に治す手段でも、必ず悪化させる原因でもありません。大事なのは、ご自身の症状にとって噛み合わせがどのくらい関わっているかを見極めたうえで、矯正治療の位置づけを判断することです。
矯正と顎関節症の関係は「原因と結果」ではない
「歯並びが悪いから顎関節症になる」「矯正すれば顎関節症が治る」と考えていらっしゃる方は多くいらっしゃいます。実際の臨床では、この2つの関係はもう少し複雑です。
噛み合わせの悪さだけでは顎関節症にならない
顎関節症は多因子疾患と呼ばれ、1つの原因だけで発症することはほとんどありません。噛み合わせは関わりうる要因の1つではありますが、噛み合わせが乱れていても顎関節症にならない方がいる一方で、歯並びが整っているのに症状が出る方もいらっしゃいます。
顎関節症は咀嚼筋・関節円板・関節そのものの不具合などタイプが分かれており、噛み合わせの問題がすべてのタイプを引き起こしているわけではありません。矯正治療を検討する際には、「噛み合わせを治せば顎関節症も治る」という前提を置くのではなく、まずご自身の症状の主な原因がどこにあるかを見極めるところから入ることが大切です。
矯正治療が顎関節症の直接的な原因になるという報告はない
矯正治療中に顎の症状が出ると、「矯正のせいで顎関節症になった」と感じてしまう方もいらっしゃいます。しかし、矯正治療そのものが顎関節症を発症させるという因果関係は、現時点の研究では確認されていません。
顎関節症はもともと10代後半から30代に多く見られる疾患で、矯正治療を受ける年齢層と重なります。治療時期と発症時期がたまたま一致しているだけで、矯正治療が原因とは限らないのです。
顎関節症が起きるメカニズムと噛み合わせの位置づけ
顎関節症のリスクを正しく理解するには、噛み合わせ以外の要因がどう関わっているかを知っておくと整理しやすくなります。
顎関節症を引き起こす主な要因
顎関節症の発症に関わる要因は、大きく以下のように分けられます。
- 歯ぎしり・食いしばり(就寝中の無意識な習癖を含む)
- 精神的ストレスや緊張による顎周辺の筋肉のこわばり
- 頬杖・うつ伏せ寝・片側だけで噛む癖などの生活習慣
- 外傷(スポーツや事故による顎への衝撃)
- 噛み合わせの不良(補助的な要因として関与)
これらの要因が単独で、あるいは複数重なることで、顎関節や咀嚼筋に負担がかかり症状が現れます。噛み合わせは原因の1つになりうる要因ではありますが、噛み合わせだけを治しても他の要因が残っていれば症状が変わらないことがあります。ここが「矯正すれば顎関節症が治る」という単純な構図にならない理由です。
顎関節に負担がかかりやすい不正咬合のタイプ
すべての歯並びが顎関節症と結びつくわけではありませんが、顎関節に偏った力がかかりやすいとされる噛み合わせはいくつかあります。
| 不正咬合のタイプ | 顎関節への影響 |
|---|---|
| 開咬(前歯が噛み合わない) | 奥歯に噛む力が集中し、顎関節に偏った負荷がかかりやすい |
| 過蓋咬合(噛み合わせが深い) | 下顎の動きが制限され、関節に負担が生じやすい |
| 交叉咬合(左右の噛み合わせがずれている) | 片側の顎関節に力が偏りやすい |
| 下顎後退型の上顎前突 | 下顎が後方に押し込まれた位置になりやすい |
これらの噛み合わせがある方は、矯正治療によって噛み合わせを整えることが顎関節への負担軽減につながる可能性があります。ただし、矯正治療の主な目的はあくまで歯並びと噛み合わせの改善であり、顎関節症の治療を目的として矯正を行うわけではありません。顎関節症そのものに対しては、スプリント療法や生活指導など別のアプローチが優先されます。
矯正治療中に顎の痛みや違和感が出たときの考え方
矯正治療中に顎の痛みやカクカクという音を感じると、不安が大きくなるものです。ここでは、症状が出やすいタイミングと、ご自宅でできる対処をまとめます。
治療中に症状が出やすい3つのタイミング
矯正治療中に顎の違和感が起きやすいタイミングは、おおむね3つに整理できます。
1つ目は、歯の移動によって噛み合わせが一時的に変化する時期です。矯正治療では歯を計画的に動かすので、途中段階で噛み合わせのバランスが一時的に崩れる場面が出てきます。特に抜歯を伴う治療では、抜いた歯の分の噛み合わせが失われる期間があり、他の歯や顎関節にいつもと違う力がかかることがあります。
2つ目は、矯正装置の違和感や痛みがストレスとなり、無意識のうちに食いしばりが増えるケースです。矯正治療は長期間にわたるため、精神的な負荷が蓄積しやすく、それが顎周辺の筋肉のこわばりにつながります。
3つ目は、ゴムかけなどの補助装置で顎に特定方向の力がかかる時期です。これらはいずれも矯正治療の経過とともに収まることが多く、治療の失敗を意味するものではありません。
症状が出たときに自分でできること
顎に違和感が出たとき、まず心がけていただきたいのは「安静にすること」です。顎がカクカク鳴ると気になって何度も動かしたくなりますが、鳴らし続けると関節への負担が増しますので、意識的に動かさないようにしてください。
ご自宅でできる対処としては、以下のような方法があります。
- 硬い食品(ナッツ・するめ・フランスパンなど)を避け、顎に負担の少ない食事を選ぶ
- 頬杖やうつ伏せ寝を意識的にやめる
- 日中に上下の歯が接触していないか確認する(安静時は歯同士が離れているのが正常)
- 温めたタオルを顎の周辺に5〜10分程度あて、筋肉のこわばりを和らげる
2週間以上症状が続く場合や、口が指2本分以上開かなくなった場合は、早めに担当の矯正歯科にご連絡ください。治療計画の調整(力のかけ方の見直し・ゴムかけの中断など)で対応できるケースが多く、症状を我慢して通院を先延ばしにするほど対応の幅が狭くなります。
矯正治療で顎関節症は改善できるのか
「顎関節症を矯正で治したい」というお気持ちで矯正治療を検討される方もいらっしゃいます。結論から申し上げると、噛み合わせの問題が顎関節症の要因の1つになっている場合に限り、矯正治療によって症状の改善が期待できる可能性があります。
改善が期待できるケースと、難しいケース
矯正治療による顎関節症の改善は、症状の主な原因がどこにあるかで大きく変わります。
噛み合わせの乱れが原因で顎関節に偏った力がかかっている場合、矯正治療で噛み合わせを整えると噛む力が左右均等に分散され、顎関節への負担が軽減されることがあります。たとえば、片側だけで噛む癖がついていた方の噛み合わせが整うと、左右の顎関節にかかる力が均一化し、結果として顎の症状が落ち着いていくケースが見られます。
一方で、ストレスや食いしばり、姿勢の癖が主な原因になっている場合は、歯並びを整えても症状が残ることがあります。このようなケースでは、矯正治療と並行してストレスケア・生活習慣の見直し・スプリント療法など、複数のアプローチを組み合わせて進めていく必要があります。
顎関節症がある状態でも矯正治療は受けられるか
顎関節症の症状がある方でも、矯正治療を受けること自体は可能です。ただし、強い痛みや開口障害(口が大きく開かない状態)がある時期は、矯正治療を始める前に顎関節症の症状を落ち着かせるほうが優先されます。
具体的には、まず顎関節の精密検査(パノラマX線撮影や顎関節の触診、開口量の測定など)で現在の症状の程度と原因を確認します。症状が軽度で日常生活に支障がなければ、経過を見ながら矯正治療を進めていけるケースが一般的です。症状が中程度以上の場合は、スプリント療法(マウスピースによる顎関節の安静化)や生活指導を先に行い、症状が落ち着いてから矯正治療を開始する段取りを取ります。
カウンセリングの際には、過去に顎の痛みやカクカク音があった経験があればぜひお伝えください。再発リスクのある方は、治療計画にあらかじめ顎関節への配慮を組み込めるため、その情報自体が治療の質を左右します。
まとめ
矯正治療が顎関節症を直接引き起こす因果関係は確認されておらず、顎関節症は噛み合わせ・ストレス・食いしばりなど複数の要因が重なって発症する多因子疾患です。噛み合わせが要因の1つに含まれている場合は矯正治療による改善が期待できますが、矯正は顎関節症そのものを治す治療ではありません。顎関節症の症状がある方でも、症状の程度に合わせた段取りで矯正治療を進められます。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、大学病院で約30年にわたり矯正治療と口腔外科に携わってきた院長が、顎関節の状態まで含めて診査したうえで、お一人お一人に合った治療方針をご提案します。相談は無料で実施していますので、気になることがあればお気軽にお問い合わせください。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年:徳島大学歯学部 卒業
- 1997年:徳島大学大学院歯学研究科 修了
- 1997年:徳島大学歯学部 矯正学講座 助手
- 2004年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助手
- 2007年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助教
- 2022年:矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会 認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【矯正治療に関する重要事項】
矯正治療は公的医療保険が適用されない自由診療です(顎変形症など一部の症例を除く)。
- 治療内容:ワイヤー矯正装置(セラミックブラケット・ホワイトワイヤー)を用いて歯を移動させ、歯並び・噛み合わせを改善する治療
- 治療期間・回数:一般的に1年半〜3年程度、月1回程度の通院(個人差あり)
- 費用の目安:矯正治療全体で60万〜120万円程度(税込・症例や装置により異なります)。詳しくはクリニックへお問い合わせください
- リスク・副作用:治療中の痛み・違和感、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯・歯周病リスクの増加、顎関節症状、後戻りの可能性など
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住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
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