可撤式矯正装置とは?種類・装着時間・固定式との使い分けを解説
可撤式矯正装置は、装着している時間だけ矯正力が働く仕組みです。装置を外している時間は歯が動かないため、治療の進み方は装着時間の管理で大きく変わります。種類によって1日に求められる装着時間は数時間から20時間以上まで幅があり、生活スタイルとの相性も装置選びの判断材料になります。
固定式装置との違い、それぞれの装置の特徴、そして装着を続けるための工夫まで、治療を始める前に整理しておきたい内容をまとめます。
可撤式矯正装置とは:「自分で外せる」矯正装置の基本
可撤式(かてつしき)矯正装置とは、患者様ご自身で取り外しできる矯正装置の総称です。固定式装置と比べたときの最大の違いは「装着時間が患者様の管理に委ねられる」点にあり、ここが治療の効果を左右する一番のポイントになります。
可撤式と固定式の違いを決める要素
矯正装置は、取り外しの可否によって「可撤式」と「固定式」に大きく分かれます。可撤式の代表は床装置(拡大床)やマウスピース型装置、固定式の代表はマルチブラケット装置(ワイヤー矯正)や急速拡大装置です。
可撤式装置は、装着している時間だけ矯正力が働きます。食事や歯磨きの際に外せるため、お口の中を清潔に保ちやすい点が大きな利点です。ただし、指示された装着時間を守れないと歯は予定通りに動きません。
一方、固定式装置は装着している間ずっと力がかかり続けるため、患者様の協力度合いに左右されにくい代わりに、装置周りの清掃に手間がかかります。
| 項目 | 可撤式装置 | 固定式装置 |
|---|---|---|
| 取り外し | 患者様自身が可能 | 歯科医師のみ |
| 矯正力のかかり方 | 装着中のみ | 常時 |
| 食事・歯磨き | 外せるため普段通り | 装置周辺の清掃に工夫が必要 |
| 効果を左右する要素 | 装着時間の自己管理 | 通院での調整精度 |
| 適応しやすい動き | 顎の拡大・軽度の歯列移動 | 複雑な歯の移動・抜歯を伴う矯正 |
どのような治療で可撤式装置が使われるか
可撤式装置が選ばれるのは、主に次のような場面です。
- 混合歯列期(乳歯と永久歯が混在する時期)の小児矯正で、顎の幅を広げたり上下の顎のバランスを整えたりするとき
- 成人の軽度から中等度の歯並びの乱れに対するマウスピース型矯正
- ワイヤー矯正などの動的治療が終わった後の保定段階で、後戻りを防ぐ保定装置として
特に小児の一期治療では、成長の力を利用して骨格的な問題に働きかけられるため、可撤式装置が治療の中心になることが多くあります。永久歯がすべて生えそろった後の二期治療では、固定式装置に切り替えて精密に歯を並べていくのが一般的な流れです。
代表的な可撤式矯正装置の種類と特徴
可撤式矯正装置は、大きく分けると「床装置」「機能的矯正装置」「マウスピース型矯正装置」「顎外固定装置」の4つに整理できます。装置ごとに目的・装着時間・適応症例が異なるため、それぞれの違いを知っておくと治療への見通しがつかみやすくなります。
なお、1日に必要な装着時間は装置によって大きく異なります。生活の中で装着可能な時間と装置の特性が合っているかは、治療開始前に確認しておきたいポイントです。
| 装置の種類 | 1日の装着時間の目安 | 主な目的 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 床装置(拡大床) | 18時間以上が目安 | 顎の拡大・歯の部分的移動 | 小児(混合歯列期) |
| 機能的矯正装置 | 10時間以上(主に夜間) | 上下顎のバランス調整 | 成長期の小児 |
| マウスピース型装置 | 20時間以上 | 軽度〜中等度の歯列不正 | 主に成人 |
| 顎外固定装置 | 10〜12時間以上(主に夜間) | 顎の成長コントロール | 成長期の小児 |
床装置(拡大床・アクティブプレート)
床装置は、プラスチック製の「床」と歯にかかるクラスプ(留め具)、中央に組み込まれた拡大ネジで構成されています。ネジを定期的に回すことで装置が少しずつ広がり、顎の幅を拡大したり、特定の歯を部分的に動かしたりする目的で使います。
装着時間の目安は1日18時間以上で、食事と歯磨きの時間以外は就寝中も含めて装着するイメージです。拡大ネジは1週間に1〜2回程度、ご自宅で回していただきます。
小児矯正の一期治療でよく使われる装置で、顎の成長を利用できる時期に始められると、将来的に抜歯が必要になる可能性を下げられるケースもあります。
機能的矯正装置(バイオネーター・FKOなど)
機能的矯正装置は、装置そのものから力をかけるのではなく、口の周りの筋肉や噛み合わせの力を矯正力として利用するタイプの装置です。バイオネーター、FKO、フレンケル装置などが代表的です。
床装置との違いは、ネジやバネが組み込まれていない点にあります。装置を口に入れた状態で筋肉が自然に働くことで、上下の顎の位置関係が改善されていきます。上顎前突(出っ歯)の治療で下顎の前方への成長を促したり、過蓋咬合(深い噛み合わせ)を改善したりする目的で使われます。
主に夜間の使用が中心で、日中の生活への影響が比較的少ない装置です。ただし、成長期のお子様が対象になるため、就寝時にきちんと装着できているかを保護者の方に見守っていただく協力が必要になります。
マウスピース型矯正装置
透明なマウスピースを歯列に装着し、段階的に形の異なるマウスピースに交換していくことで歯を動かす装置です。装着していても目立ちにくいことから、近年は成人矯正で選ばれることが増えています。
装着時間の目安は1日20時間以上と、可撤式装置の中で最も長い装着が求められます。食事と歯磨き以外はほとんど外さない形になるため、「取り外せる装置」とはいえ、実質的には終日装着している状態に近くなります。装着時間が不足すると、マウスピースと歯の間にずれが生じ、治療計画の見直しが必要になることがあります。
軽度から中等度の歯並びの乱れに適応しやすい一方、骨格的な問題が大きい症例や大きな歯の移動が必要な症例では、ワイヤー矯正など他の選択肢が検討されます。
顎外固定装置(ヘッドギア・上顎前方牽引装置)
口の外に装着する装置で、頭部や顔面を支点にして顎や歯に力をかけます。ヘッドギアは上顎の成長を抑えたり奥歯を後方に動かしたりする目的で、上顎前方牽引装置は反対咬合(受け口)の治療で上顎を前方に引き出す目的で使われます。
外見上は目立つ装置ですが、主に自宅での夜間使用が中心となるため、日中の生活には影響しにくい設計です。成長期に使うことで骨格的な効果が期待できるため、小児矯正の一期治療で用いられることが多くなります。
可撤式装置と固定式装置の使い分け:どちらが選ばれるか
「自分で取り外せた方が楽だから可撤式がいい」「固定式は面倒そうだから避けたい」と考える方は少なくありません。しかし、どちらの装置を選ぶかは患者様の希望だけでは決まりません。歯並びや顎の状態、治療段階、求められる歯の動きの種類によって、適切な装置は変わります。
症例と治療段階で判断が変わる
たとえば、小児の一期治療で顎の幅を広げる段階であれば、成長の力を活用できる可撤式の床装置や機能的装置が適しています。一方、永久歯が生えそろった後に個々の歯を精密に並べる段階では、3次元的に歯を動かせるマルチブラケット装置(固定式)が選ばれることが多くなります。
可撤式と固定式は「どちらか一方だけ」ではなく、治療の経過に応じて段階的に使い分けるケースもあります。一期治療で可撤式の拡大床を使い、二期治療でマルチブラケット装置に移行するという流れは、矯正治療でよく見られるパターンです。
装着の自己管理が難しい場合の選択肢
可撤式装置の最大の課題は「装着時間の管理が患者様に委ねられる」点です。特にお子様の場合、学校で外したまま戻すのを忘れたり、違和感から装着を嫌がったりすることがあります。
装着時間が確保できないと、治療期間が延びるだけでなく、想定していた歯の動きが得られず治療計画の変更が必要になることもあります。こうしたリスクが高いと判断される場合は、固定式装置を選択するか、可撤式と固定式を組み合わせた治療計画を検討します。
カウンセリングの段階で「お子様の性格や生活リズムから、装着時間を守れそうか」をお話しいただけると、無理のない装置選びにつながります。最初から完璧を目指すのではなく、現実的に続けられる形を一緒に考えていく方が、長い治療を乗り切りやすくなります。
装着を続けるための工夫と通院の役割
矯正治療は数ヶ月から数年にわたる長い治療です。可撤式装置の場合、その期間中ずっと装着時間を管理し続ける必要があります。これは患者様にとって、決して簡単なことではありません。
だからこそ、装着を無理なく続けられる工夫と、通院時のフォロー体制が治療の成否を支えます。
装着を習慣にするための具体策
装着を「頑張って続けるもの」ではなく「生活の一部に組み込む仕組み」にすることがポイントです。
- 食事と歯磨きの後に装着するルーティンを決め、外す・付けるタイミングを毎日同じにする
- 装置の保管ケースを食事をする場所の近くに置き、外したらすぐにケースに入れる
- お子様の場合は、装着できた日をカレンダーに記録して可視化する
「装着時間の管理ができるか不安」という方は、カウンセリングの段階で生活リズムや通学・通勤のパターンをお話しください。現実的に守れる装着スケジュールを一緒に考えることで、治療が始まってからの負担が軽くなります。
定期通院で確認すること
可撤式装置は自宅での装着が中心ですが、定期的な通院が治療の精度を支えます。通院時には主に以下のことを確認します。
- 歯の動きが計画通りに進んでいるか
- 装置のフィット感に問題がないか(緩み・破損の有無)
- 拡大ネジの回転が正しく行われているか(床装置の場合)
- 虫歯や歯肉炎のリスクが高まっていないか
装置の調整だけでなく、装着状況に応じて治療計画を柔軟に見直すのも通院の重要な役割です。「装着時間を十分に確保できなかった期間があった」場合でも、早めにお伝えいただくと対応策を一緒に検討できます。患者様と矯正歯科医が情報を共有し続けることが、長い治療期間を安心して過ごすための土台になります。
可撤式矯正装置に関するよくある疑問
可撤式装置だけで歯並びは完全に治る?
可撤式装置だけで治療が完結するケースと、途中で固定式装置に切り替えるケースの両方があります。軽度の歯並びの乱れやマウスピース型矯正の適応範囲であれば可撤式装置のみで治療を終えられることもありますが、骨格的な問題が大きい症例や、抜歯を伴う大きな歯の移動が必要な症例では固定式装置の併用が検討されます。
装着時間を守れなかった場合どうなる?
装着時間が不足すると、歯が予定通りの位置に動かないため、治療期間が延びる可能性があります。特にマウスピース型矯正の場合は、装着時間の不足によってマウスピースが歯に合わなくなり、再製作が必要になることもあります。
ただし、数日間装着時間が短くなったからといって、すぐに治療が失敗するわけではありません。通院時に歯の動きを確認し、必要に応じて装置の調整や治療計画の修正を行うことで対応できる場合がほとんどです。
子どもが装置を嫌がるときにできることは?
お子様が装置の違和感を訴えたり、装着を嫌がったりすることは珍しくありません。特に使い始めの数日間は異物感が強く、唾液が出やすくなったり話しにくさを感じたりすることがあります。
装着開始のタイミングで「違和感は数日で慣れていく」ということをお子様にお伝えし、最初の1週間を乗り越えることが一つの目安です。それでも強い痛みや、装置が当たって口の中に傷ができる場合は、装置の調整が必要な場合があるため、無理に我慢させず歯科医院にご相談ください。
保護者の方ができることとしては、「装着して頑張っている姿を認める声かけ」が効果的です。装着時間の記録を一緒につけることで、お子様自身が治療に参加している意識が生まれやすくなります。
まとめ
可撤式矯正装置は、患者様ご自身で取り外しできる矯正装置です。食事や歯磨きの際に外せるため口の中を清潔に保ちやすい一方で、装着時間の自己管理が治療の成否を左右します。
床装置・機能的矯正装置・マウスピース型矯正装置・顎外固定装置と、装置ごとに目的・装着時間・適応症例は異なります。どの装置が適しているかは歯並びや顎の状態、治療段階によって変わるため、検査・診断に基づいた判断が必要です。
矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前では、大学病院で約30年にわたり矯正治療と顎変形症の症例に携わってきた院長が、お一人お一人の歯並び・顎の状態に合わせた装置選びをご提案しています。装着時間の管理に不安がある方や、お子様の小児矯正をご検討中の方も、まずはカウンセリングでお気軽にご相談ください。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年:徳島大学歯学部 卒業
- 1997年:徳島大学大学院歯学研究科 修了
- 1997年:徳島大学歯学部 矯正学講座 助手
- 2004年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助手
- 2007年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助教
- 2022年:矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会 認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【矯正治療(自由診療)に関する重要事項】
矯正治療(顎変形症など一部を除く)は公的医療保険が適用されない自由診療です。
- 治療内容:ワイヤーやマウスピース矯正装置を用いて歯を少しずつ動かし、歯並びと噛み合わせを整える治療
- 治療期間・回数:症例により1〜3年程度。月1回程度の通院で調整。装置除去後は2年程度の保定期間が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費500,000円(税込)、検査料70,000円(税込)、診断料30,000円(税込)、調整料6,000円(税込・毎月)。クリニックによって異なります。
- リスク・副作用:装置装着初期の痛みや違和感、口内炎、歯磨きのしにくさによる虫歯・歯肉炎のリスク、歯根吸収、後戻り、まれに歯髄壊死など
-
-
住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
アクセス地下鉄東西線「西11丁目」・「西18丁目」駅から徒歩10分
JR函館線「桑園」駅から徒歩15分 -
駐車場駐車場はクリニックの裏、マンション敷地内15番ですが、使用中の場合は近隣駐車場に停めてください。受付で駐車券を提示し申告していただけましたら1時間無料チケットをお渡しします。
-
-
予約について
診療時間 月 火 水 木 金 土 日 10:00 ~ 13:00 - - ● ● ● ● ▲ 14:00 ~ 18:00 - ● - - ● ● ▲ 休診日/月曜日・火曜日午前・水曜日午後・木曜日午後・隔週日曜日・祝日
※1 日曜日は隔週
※ 最終受付は17時30分
マイナンバーカードでの受付OK
各種キャッシュレス決済OK診療科目:矯正歯科