小児矯正で保険適用になる3つの条件と対象外でも費用を抑える方法
小児矯正で保険が使えるかどうかは、ご家庭の希望や治療目的ではなく、お子様の症状が厚生労働省の定める条件に当てはまるかどうかで決まります。矯正歯科での診察を受けて初めて確定するため、見た目の歯並びだけで「対象になる・ならない」を見分けるのは難しいのが実情です。
この記事では、保険適用の条件、対象外でも費用負担を軽くする選択肢、そして判定を受けるまでの流れを、矯正歯科の立場から整理します。
小児矯正で保険が適用される3つの条件
矯正治療への保険適用は、厚生労働省が定めた特定の枠組みのなかでだけ認められています。日本矯正歯科学会が示すとおり、保険適用となるのは次の3つに限定されます。
- 厚生労働大臣が定める疾患に起因する咬合異常
- 前歯と小臼歯の永久歯3歯以上の萌出不全(埋伏歯開窓術が必要なもの)
- 顎変形症(顎の骨を切る手術を必要とするもの)
一般的な不正咬合は、機能的な問題があっても、これら3つに当てはまらなければ保険の対象になりません。
参考:矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは(日本矯正歯科学会)
厚生労働大臣が定める疾患に起因する咬合異常
1つ目の条件は、厚生労働大臣が告示で定めた先天性の疾患に起因して咬合異常が生じている場合です。代表的なものに唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)、ダウン症候群、ターナー症候群、マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群などがあり、現在は60項目以上が指定されています。
ここで気をつけたいのは、「先天性の疾患があれば自動的に保険が使える」のではなく、その疾患が原因で咬合異常が起きていることが医学的に確認できたうえで、矯正治療が必要と判断される必要があるということです。たとえば唇顎口蓋裂では、顎の発育や歯の位置に独特の影響が出るため、外科治療や言語治療と並行して矯正が組まれていきます。
永久歯3歯以上の萌出不全による咬合異常
2つ目の条件は、前歯と小臼歯の永久歯のうち3歯以上が萌出不全(生えてこない、または途中で止まっている状態)で、埋伏歯を出すための開窓手術が必要な場合です。歯ぐきや骨の中に埋まったままになっている歯を外科的に露出させ、ワイヤーで正しい位置へ引っ張り出す治療を矯正と組み合わせて行うため、両方が一体の治療として保険適用されます。
「乳歯から永久歯への生え変わりが遅い」というだけでは対象になりません。レントゲンで永久歯の存在は確認できているのに、3本以上が物理的に出てこられない状態であることが医学的に確認されている必要があります。1本だけ・2本だけの埋伏では対象から外れます。
顎変形症で外科手術が必要な場合
3つ目の条件は、顎の骨格そのものが大きくずれていて、矯正だけでは噛み合わせを治しきれず、顎の骨を切る手術(顎離断術など)を併用しなければならないと診断された場合です。診断名としては、上顎前突症・下顎前突症・上顎後退症・下顎後退症・開咬症・顔面非対称症などがあります。
このカテゴリーでは、手術前に歯を動かす矯正、入院しての顎の手術、手術後に噛み合わせを整える矯正、保定までの一連の流れがすべて保険適用になります。お子様の場合は、成長の途中で確定診断が下りることが多く、思春期以降の手術に向けて治療計画を立てていく流れが一般的です。
ただし「受け口だから手術になる」と決まっているわけではありません。骨格のずれの程度・成長の予測・歯だけで矯正できる範囲かどうかを総合的に診断したうえで、外科矯正を選ぶかどうかが決まります。
なお、当院は院長が大学病院で約30年にわたり顎変形症の症例を扱ってきた背景があり、外科矯正の保険適用にも対応しています。
保険適用で治療を受けるには「届出医療機関」が必要
保険適用の条件に当てはまっていても、治療を受ける医療機関が「厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出ている保険医療機関」でなければ、保険の矯正治療を受けることはできません。
一般の歯科医院や矯正歯科で受けられるとは限らないという点は、保険適用を考えるうえで最初に確認しておきたいポイントです。
施設基準の種類と対応できる範囲
矯正の保険診療を行うための施設基準には、診療報酬上の届出区分として大きく2種類あります。
| 届出区分 | 対応範囲 | 通称 |
|---|---|---|
| 歯科矯正診断料 | 厚生労働大臣が定める疾患・3歯以上の萌出不全に起因する咬合異常 | 矯診 |
| 顎口腔機能診断料 | 顎変形症の術前・術後矯正 | 顎診 |
「矯診」と「顎診」では対応できる症例が異なります。たとえば顎変形症の外科矯正は「顎診」の届出をしている医療機関でしか保険診療として行えません。受診する前に、その医院がどちらの届出を行っているかを確認すると、自分のお子様の症例で保険が使えるかどうかの見当がつきます。
なお、保険診療を受ける場合の患者様の自己負担は、治療費の3割(小学生以上の場合)になります。顎口腔機能診断料のような診断費用は、治療開始時から手術前後、治療後の保定開始時まで治療の節目ごとに数回算定されますが、装置代・調整料・手術費・入院費まで一連の治療が保険診療として計算されるため、自由診療と比べて総額は大きく抑えられます。
自立支援医療(育成医療)で自己負担がさらに軽くなる場合
唇顎口蓋裂のように出生時から治療が始まる先天性疾患の場合、保険診療の3割負担に加えて、「自立支援医療(育成医療)」という制度を併用することで自己負担がさらに軽くなる仕組みがあります。
育成医療は、身体に障害のあるお子様(18歳未満)について、生活能力を得るために必要な医療の自己負担を所得に応じた上限額までに抑える制度です。唇顎口蓋裂で発音や飲み込みに障害が出ているお子様の治療として、歯科矯正が必要と認められた場合に対象に含まれます。
ただし、育成医療を使うには、お住まいの市区町村に申請して「指定自立支援医療機関」として登録された医療機関で治療を受ける必要があります。先ほどの矯診・顎診の届出に加えて、育成医療の指定も受けている医療機関かどうかを、受診前に確認しておくと安心です。
保険適用にならない場合の費用の目安
保険適用の条件に当てはまらない場合、矯正治療は自由診療となり、医療機関ごとに料金体系が決まります。「治療段階(一期か二期か)」と「使用する装置」の2つで費用の幅が大きく変わるため、見積もりを比べるときはこの2点を意識すると整理しやすくなります。
一期治療と二期治療で費用が分かれる
小児矯正は、永久歯が生えそろう前後で2つの段階に分かれます。
一期だけで治療が完結することもあれば、一期で土台を整えてから二期に進む場合もあります。費用は医院によって設定が大きく違うため、「一期で終わるか・二期まで進むか」「一期費用が二期費用に組み込まれるかどうか」をカウンセリングで確認することが、総額を見誤らないコツです。
装置の種類による費用の違い
二期治療で使う矯正装置は種類があり、装置の選び方によって二期治療単独の費用でも60万〜160万円ほどの幅が出ます。一般的な目安は次の通りです。
| 装置 | 特徴 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| メタルブラケット | 金属製の標準的なブラケット | 60〜80万円程度 |
| セラミックブラケット | 透明感のある素材で目立ちにくい | 70〜100万円程度 |
| マウスピース型矯正装置 | 取り外し可能。適応症例に制限がある | 80〜120万円程度 |
| 舌側矯正(裏側矯正) | 装置が外から見えない | 120〜160万円程度 |
これらは二期治療単独の相場で、一期治療から始める場合は別途一期分の費用が加算されます。医院ごとに料金体系も異なるため、初診で見積もりを取って総額を比較するのが現実的です。
装置を選ぶときに大事なのは「見た目」だけではありません。お子様の症例(動かす歯の量・噛み合わせのずれ・顎の成長段階)に合うかどうか、治療途中の調整しやすさ、生活のしやすさなどを総合的にみて判断することになります。
保険が使えなくても費用負担を軽くする3つの方法
保険適用にならなかった場合でも、自由診療の費用負担を軽くする手立てはあります。「税金から戻る」「分割して月々を平準化する」という2つの方向性で考えると整理しやすいです。
1.医療費控除で税金の還付を受ける
医療費控除は、1年間(1月〜12月)に世帯で支払った医療費が一定額を超えたとき、所得税と住民税が軽くなる制度です。お子様の矯正治療は、国税庁も医療費控除の対象に含めることを明記しており、自由診療であっても医療費控除を使える代表的な治療です。
医療費控除の計算は、その年に支払った医療費の合計から保険金などで補てんされた額と「10万円(または総所得金額等の5%のいずれか少ない方)」を引いた金額が、控除の対象になります。総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく総所得金額等の5%が基準になる点も覚えておきたい仕組みです。
たとえば総所得金額等400万円のご家庭で、お子様の矯正治療費70万円を1年間に支払った場合、70万円から10万円を引いた60万円が医療費控除額になります。所得税率10%の方であれば、所得税が約6万円戻り、住民税も翌年約6万円軽くなる計算です。
注意点として、医療費控除を受けるには確定申告が必要です。会社員の方も、年末調整とは別に確定申告書を提出する必要があります。領収書は5年間の保管が必要なので、矯正治療を始めた段階から専用のフォルダにまとめておくと申告時に困りません。
2.高額療養費制度は保険適用の場合のみ使える
ここで誤解されやすいのが高額療養費制度です。高額療養費制度は「公的医療保険が適用された医療費の自己負担額が、1ヶ月の上限を超えた分が払い戻される制度」で、自由診療の矯正費用には使えません。
つまり、自由診療で受ける一般的な小児矯正には高額療養費制度は適用されません。
一方、保険適用の対象になる先天性疾患・3歯以上の萌出不全・顎変形症の外科矯正で治療を受ける場合は、3割負担分が高額療養費の上限を超えれば、その超過分が払い戻されます。
「矯正は高額だから高額療養費が使えるはず」と思って手続きを進めようとすると、自由診療では適用されないことに気づいて慌てるケースがあります。最初に「自分のお子様のケースで保険が適用されるか」を確認することが、費用設計の出発点になります。
3.デンタルローン・分割払いで月々の負担を平準化する
自由診療の小児矯正では、まとまった治療費を一括で支払う代わりに、デンタルローンや院内分割払いを使って、月々の負担を治療期間にならして支払う選択肢もあります。
- デンタルローン:信販会社が立て替えて医院に支払い、患者様が信販会社へ分割で返済する仕組み。治療期間より長く分割できる場合が多く、月々の負担を抑えやすい一方、金利手数料がかかる
- 院内分割払い:医院が独自に設定する分割払い。金利がかからないことが多いが、返済期間が短い場合がある
- クレジットカード分割:手元のカードで決済し、カード会社の分割サービスを使う。手数料はカードの分割条件による
どの方法を使えるかは医院によって異なります。
デンタルローンを使った場合でも、信販会社が医院へ立て替え払いをした年(契約成立時)に医療費を支払ったものとして控除の対象になります。月々の返済額ではなく、ローン契約で立て替えられた治療費の総額が、その年の医療費控除に算入できる点は知っておくと便利です。
矯正歯科での診察が保険適用の入り口になる
「うちの子は保険適用の対象になるのかどうか、まずどこで判断してもらえばいいのか分からない」というのが、最も多く受けるご相談です。保険適用かどうかの最終判断は、矯正歯科で診察を受けて医学的な評価をしないと結論が出ません。インターネットの情報や問診だけで判定できるものではないため、心配なお子様の症状があれば一度カウンセリングを受けることが入り口になります。
「うちの子は対象になるか」を確認する方法
保険適用の3つの条件のうち、ご家庭で「もしかすると」と気づきやすいのは次のような場合です。
- 小児科や産科で、出生時に唇顎口蓋裂やその他の先天性疾患の診断を受けている
- 学校歯科健診で「永久歯が出てきていない」「埋伏している可能性」と指摘された
- 上下の顎の大きさのずれが大きく、横顔の輪郭から受け口・しゃくれが目立つ
- 噛み合わせが大きくずれていて、食事や発音に困っている
こうしたサインが当てはまる場合、まずは矯正歯科でレントゲン・口腔内写真・噛み合わせの検査を受けて、保険適用の3条件のいずれかに該当するかどうかを医学的に評価してもらうことが必要です。健診や母子手帳に記載された情報をお持ちいただくと、診断の精度が上がります。
該当しなかった場合でも、自由診療での治療や医療費控除を含めた費用設計の相談はその場でできます。
矯正歯科だからこそ見極められること
一般歯科でも「歯並びについて相談したい」と伝えれば対応してもらえますが、保険適用の3条件、特に顎変形症の外科矯正が必要かどうかの判断は、矯正歯科の専門医・口腔外科との連携経験を持つ医院でなければ見極めが難しい領域です。
当院では、院長が徳島大学・札幌医科大学で約30年にわたり顎変形症や先天性疾患による歯列異常の症例に向き合ってきました。大学病院で培った診断の経験を、地域のお子様の治療に活かしています。
矯正は数年単位の長い治療です。保険が使える・使えないにかかわらず、治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添える医院かどうかは、治療の進めやすさを左右します。診察の際は、お子様にも保護者の方にも、わかりやすい言葉で診断結果と選択肢をお伝えしますので、気になることがあれば遠慮なくご相談ください。
まとめ
小児矯正で公的医療保険が使えるのは、厚生労働大臣が定める先天性疾患・永久歯3歯以上の萌出不全・顎変形症の外科矯正の3つの条件のいずれかに当てはまる場合だけです。一般的な歯並びの乱れは保険適用にならず、自由診療として治療を受けることになります。
「うちの子は対象になるか」は、矯正歯科で診察を受けないと医学的に判断できません。気になる症状や他院で指摘された経験がある場合は、矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前まで一度ご相談ください。お子様の状態を診たうえで、保険適用の可能性と治療の選択肢をお伝えします。
記事監修者

矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前
院長 三木善樹
大学病院で培った治療と予防の経験を地域の皆様にお届けしていきたいと考えております。矯正治療は長い時間をかけて歯並びを整える治療です。治療期間を通じて信頼できるパートナーとして寄り添えるよう、スタッフ一同努めてまいります。
- 経歴
- 1993年:徳島大学歯学部 卒業
- 1997年:徳島大学大学院歯学研究科 修了
- 1997年:徳島大学歯学部 矯正学講座 助手
- 2004年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助手
- 2007年:札幌医科大学医学部 口腔外科学講座 助教
- 2022年:矯正歯科・口腔ケアクリニック知事公館前 院長
- 所属学会
- 日本矯正歯科学会 認定医
- 日本口腔外科学会
- 日本顎変形症学会
- 日本口蓋裂学会
- 日本顎関節学会
- 北海道矯正歯科学会
- 日本骨代謝学会
- 歯科臨床研修医指導医
【小児矯正に関する重要事項】
小児矯正(自由診療)は公的医療保険が適用されない自由診療です。なお、顎変形症と診断される症例の外科矯正は保険適用となります。
- 治療内容:お子様の歯並びや顎の成長段階に合わせた装置(拡大装置・機能的矯正装置・固定式矯正装置等)を用いた矯正治療
- 治療期間・回数:混合歯列期からの一期治療は1〜3年程度、永久歯がそろってからの二期治療を含めると数年単位の通院が必要(個人差あり)
- 費用の目安:治療費 500,000円(税込)に施術管理料・セラミックブラケット・保定装置料を包括。検査料 70,000円・診断料 30,000円・調整料毎月6,000円(税込)が別途。追加装置を使用する場合はリンガルアーチ 35,000円・拡大装置 45,000円(税込)等の費用がかかる場合があります。クリニックによって異なります。
- リスク・副作用:歯の動きには個人差があり計画通りに進まないことがある、装置による違和感・痛み・口内炎、装置の脱離や破損、虫歯・歯肉炎のリスクが上がる、抜歯を伴う場合は抜歯部位の痛みや腫れ、後戻り、まれに歯根吸収が生じることがある
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住所〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西14丁目2-2
ダイアパレス北3条第2 1F -
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JR函館線「桑園」駅から徒歩15分 -
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